わたしたちの島で

Watasitatinosimadeわたしたちの島で
アストリッド・リンドグレーン
尾崎義 訳
岩波書店
★★★★★





ストックホルムに住むメルケルソン一家は、一夏をすごすために多島海の島のひとつウミガラス島に、古い家スニッケルズ荘を借りる。
人々と、気候と、景色と、植物と、動物と・・・その交流の楽しさ。
素晴らしい一夏はあっという間に過ぎ去り、彼らは、クリスマスも、春の短い休暇もウミガラス島の仲間たちとともに暮らすことになる。
そして、その次の季節も・・・ずっと・・・

母親がわりの19歳のかわいいマーリンのまわりには崇拝者が次々に現れて、弟たちをやきもきさせる。
12〜13歳のユーハンと二クラスは同じ年頃の女海賊のようなフレディとテディと彼ららしい冒険の夏(ときには大人をはらはらさせたり)を過ごし、
7歳のペッレは、チョルベンやスティーナ、そして、さまざまな動物たちと深い交友を結び、彼らなりの冒険に勢を出す。
超個性的な大人たちもそれぞれのやりかたを認め合いながら、隣人となっていく。

この本を開くたびにひんやりとした気持ちのいい風にあたり、海や森のにおいをかぎ、からだ全体が呼吸を始めたように感じました。
決してたいそうな事件が起こるわけではない、ドキドキするような何かが始まるわけでもない。
ささやかな日常が続いていく。今日も明日もあさっても。
それだけで充分。それだからうれしい。
悲しいことも苦しいこともあるけれど、長いあいだ嘆いてなんかいられない。
この世には素晴らしいことがたくさんありすぎて。
ずーっとこのままのウミガラス島でありますように。

原題は「ウミガラス島のわたしたち」
これに邦題を「わたしたちの島で」としてくれてありがとう。わたしたちの島。この本を愛読する人の島でもあります。
一つ一つのエピソード(リンドグレーンの他の作品と被るところもあり、それも懐かしいような嬉しさがあります)に憧れますが、その憧れの暮らしが身近にあるように思えるのが喜び。
この本をなぜ今まで読まなかっただろう!