砂漠で溺れるわけにはいかない(ニール・ケアリー5)

砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)砂漠で溺れるわけにはいかない(ニール・ケアリー?)
ドン・ウィンズロウ
東江一紀
創元推理文庫
★★★★


ニール・ケアリーのシリーズ最終巻、というより、短めの後日談のような感じです。
雰囲気は4巻に似ていて、かなりどたばたした喜劇風です。存分に楽しませてくれる、シリーズのオマケ、のような感じの本でした。

結婚を2ヵ月後に控えたニールのもとに、"父さん"から仕事の依頼。
シリーズ中、ずっと続く同じパターンを踏襲して、最初の一行目は「断じて・・・すべきではなかった」と始まります。それは電話に出るべきではなかったり、ドアをあけるべきではなかったり・・・。それでもついあけてしまえば、「やあ坊主」そして、「実に簡単な仕事でな」と来るわけです。

今回は、ラスヴェガスに行ったきり帰ってこないお爺ちゃんを連れ戻すように、という依頼なのですが、このおじいちゃんがかなりの食わせ物。ヴェガスで散々ニールをきりきり舞いさせたあげくに、砂漠の真ん中でレンタカーを奪って逃げる、という離れ業をやってくれました。
そこから事件に巻き込まれて、どたばたした展開とあいなります。

事件と、もうひとつのテーマ(?)、赤ちゃんがほしいカレンに対して、父親になることに躊躇するニールの気持ちが描かれます。
あまりに特殊な境遇で生まれ育ったニールは、父親というものを知りません。だから父親になることに対して克服しがたい恐れを持っています。
ニールの気持ちに寄り添いたくなる反面、カレンのあまりの性急さがわたしにはいまひとつ理解できませんでした。
また、グレアムという存在、この本でであった最高のおじいちゃんナッティの存在・・・彼らとニールとの関係はこれからどんなふうに変わっていくのだろう。

「ストリートキッズ」から始まり、ニールは大人になったけれど、5冊を通じてずっと感じるのは、彼のピュアさ、かな。特殊な生い立ちに始まり、朋友会の仕事でかなりひどい目にあってきて、かなり掏れているはずなのに、芯はどこかまっさらな、線の細い感じがいいです。どこもかしこもアンバランスなんだけど、それが魅力になっている。
そして、東江一紀さんの訳が魅力的です。このシリーズの雰囲気にぴったり。(最終巻ということで、訳者あとがきがあった。これもいい。特に最後の一行が好き^^)

シリーズ、これでほんとうに終わりなのかな。
このラストシーンから察するに、もしやまだ続くのでは?と思わないではないです。
続くなら、またニールの新しい物語を読みたい。でも、彼にはほんとうにそろそろ静かな生活をしてほしいなあ。