ストリート・キッズ (ニール・ケアリー1)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)ストリート・キッズ (ニール・ケアリー?)
ドン・ウィンズロウ
東江一紀 訳
創元推理文庫
★★★★


麻薬中毒の売春婦の母を持つニール・ケアリーは十歳のときにはストリートキッドで、いっぱしのスリだった。(空腹でいないですむように)
11歳のときに『朋友会』のおかかえ探偵であるジョー・グレアムの財布を掏ったことが縁(?)で、彼に探偵としての素質を見出され、以後、探偵としての仕込みが始まる。
やがて、ニールはその並々ならぬ頭脳を買われ、朋友会の援助のもと私立高校→アイビーリーグの大学で英文学を学び、現在はコロンビア大学院に在籍。将来は英文学教授になりたいと願っている。本業、モチロン、プロの探偵。・・・ほほ、このなんともいえないアンバランスな経歴が楽しい。
今回の彼の仕事は、次期副大統領候補の娘、家出中のアリー・チェイスを秘密裡に探しだし、家族のもとに送り届けるというもの。
なーんてことのなさそうな依頼だったが、実は二転三転の落とし穴やら仕掛けだらけ。
ハラハラドキドキの体験は、本を手から離すのがつらいほど。
ニューヨークからイギリスへとび、舞台はほとんどロンドンで、その暗黒街の摩訶不思議で不気味な雰囲気、やばそうな御仁たち、麻薬中毒の目を覆いたくなるような現実も書かれているのですが、からっとしていて、しめっぽくないのがよいです。ところどころに挟まれたニールの独白による解説にくすっと笑わされたり。

でも、なんといっても主人公がとても魅力的です。カバー裏の紹介「ナイーブな心を減らず口の陰に隠して」という言葉に、ああ、まさにそのとおり、と頷いてしまいます。
そして、「父さん」「ぼうず」と呼び合うジョー・グレアムとニールの関係がすごくいいです。べったりくっついているわけじゃないし(半年も連絡がないとか)、会えば会ったで軽口の応酬になってしまうのですが、この二人に、実の父子以上の情を感じます。

物語・・・最後の最後まで、どうなるのか、ニール自身もどうするつもりなのか、まったくわからないのです。
朋友会というのが、ある階層の人々のその地位と権力ゆえに表ざたにできない事件を解決するための団体なのですが、ニール自身が決して権力の犬ではない、ということ、最終的に彼は彼自身の意思で行動するタフさ(けんかも車の運転もダメで全然表面タフじゃないけど)を持っているのです。だからややこしくなる、ともいえるのですが・・・

推理小説なんですよね、これ。
残念ながら内容にあまり深入りすることはできません。(いや、全然語ってないですって^^)
でも忘れられない場面がいくつも出てきます。忘れられない最高の人たちも。ミステリ、ということよりも、この本全体がかもし出す雰囲気が、大好き。この魅力を言葉で説明するのは難しいです。
そして、ほーっとため息ついて本を閉じることになるのです。
極上のエンディングに言葉はいりません。
手許に持っていたい本。
そして、またまた無視できないシリーズに出会ってしまいました☆るんるん