わたし いる

わたしいる (講談社文庫)わたし いる
佐野洋子
講談社文庫
★★★


子供の視点から見た7つの童話。童話? ちょっと違うかな。
どれもこれも懐かしい子供の日の一こまなのですけど、たいてい、こういうことは書かないと思います。書けないともいう^^

わたしは、絵本「レナレナ」(ハリエット・ヴァン・レーク作)をちょっとだけ思い出しました。

子供時代の思い出を振り返れば、いっそ消してしまいたい、できることなら忘れたままにしておいてほしい、と思うような、ほんの一瞬の思いなんですけど、ばかばかしくて恥ずかしくて、ちょっといかがわしいんじゃないの?と思うようなそんな思い出がなんとたくさんあったことでしょう。
でも、それはやっぱり忘れていたいのです・・・そういう子供の心の暗部に光を当てて、眺めてみたら、ああ、この感覚はなつかしい、この感覚の切なさは覚えている、このわけのわからない混乱も、どこか後ろめたい秘め事も。

不思議なことに、読み終えてみれば、普段忘れたつもりでいた(忘れたふりをした)あれこれの場面が思い出されてきて、思い出の中に、そういう場面場面を持っていることが幸せだと思えてきました。

好きなのは一番最後の「ばかみたい」
門の内側から「ばかみたい」と呼びかける少女、と、その門の外を通るようこちゃん。
あいさつがわりの「ばかみたい」という言葉のニュアンスがだんだん変わってくるのがいいのです。この変化をちゃんと知っているのは本人たちだけ。合言葉みたいに。
その場に大人がいたら「こら、そんなことを言うものではありません」と言っておしまいかも。あるいは、しょうもない口げんかしている、と思って、それでおしまい。子供たちだけが知っている・・・

子供たちが子供たちの世界を持つことができて、その世界を思う存分堪能できたのは、昔の大人たちが今よりずっと忙しかったことと、世の中が今よりずっと平和だったことのおかげかな。だから、大人に余計な干渉されることなく、子供はいつまでも変な子でいられたのかもしれません。