マディガンのファンタジア

マディガンのファンタジア〈上〉未来からのねがいマディガンのファンタジア (上) 未来からのねがい
マーガレット・マーヒー
山田順子 訳
岩波書店
★★★★
マディガンのファンタジア〈下〉未来への綱わたりマディガンのファンタジア (下) 未来への綱わたり
マーガレット・マーヒー
山田順子 訳
岩波書店
★★★★


未来の物語。
「大崩壊」のあとの世の中は、何もかもが失われ、ただ過去の文明の遺物があちこちにてんてんと残り、そういうものを中心に、荒野や森や山岳のほとりにムラや都市を発展させようとしていた。・・・人々はようやく、新しい時代に一歩を踏み出そうとしていた。
そんな村々をめぐるマディガンのファンタジアは一夜の夢と驚異のショウを繰り広げる旅のサーカス一座。その座長の一人娘、もうすぐ13歳になる誇り高き少女ガーランドが主人公。
物語のはじめに、森の中で野営するファンタジアは盗賊ネズミ(山賊のような集団)に奇襲され、いきなり座長ファーディを失う。
実は、ファンタジアはその故郷ソリスから重大な使命を帯びての旅の途上でもあったのだった。
いきなりの混乱。
そこへ現れた少年二人と赤ちゃん。彼らは未来からのがれてきたという。
未来はネンノグという不老不死の恐ろしい怪物に支配されていて、その彼の登場を阻止するために、ファンタジアの使命を完遂させる必要があり、時空を越えてやってきたのであった。
そして、少年たちを連れ戻すこととファンタジアの使命を失敗させる目的のもと、追手がせまってくる・・・

たくさんの謎、ファンタジアの行く先々で出会う冒険、思いがけない罠。縦横に広がる旅。
読めば読むほど、深まる謎や、ますます迫る危機にはらはらしたり、追手の恐ろしさと裏腹にどこかとぼけた可笑しさに笑わされたり・・・
おもしろい。

過去からの遺物の文明機器は多少残ってはいるけれど、ほとんどが原理も使い方もつくり方も忘れ去られたものばかりの世界、村々がどこか牧歌的で、起こる事件も牧歌的です。その雰囲気が好き。

それから、印象に残っているのはガブリエルの図書館。
  >この図書館は守られるべき本を集めたところなんだよ。
   いつか、そのときが来たら、ここは千年の旅が始まる場所となる。
   いつか人々がこの図書館の本を読み、ここからそれぞれの旅を始めて、
   千フィートの高みで宙返りし、側転し、歌い、おどけ、ダンスをすることになる。
なんかわかるような気がするよ、ガブリエル。

そして、少女ガーランド。思春期の入り口にさしかかった13歳。意志が強く、行動力もある彼女だけれど、やはり13歳。最愛の父をなくしたばかりの少女の思い。かたくなに閉ざした心が、冒険の旅のうちにほどけ、大人になっていくさまが丹念に描かれています。
少女(少年も)が大人になるためには・・・はっきりと人の目に見えようが見えなかろうが、やはり大きな冒険があるのではないか、と思ったのでした。思い切って渡らなければならない綱であったり、思い切って渡り合わなければならない怪物であったり・・・それは、見えるままの形とは限らないけど。

最後がちょっとあっけなかったかなあ。もし何もかもうまくいったとしても、そういうことになっちゃうんだろうなあ、と思っていたけれど、もうちょっと何かほしかったなあ。
・・・けれどもあったらあったで、やっぱり「書きすぎ!」と不満に思ったかもしれません。
ああ、わたしってわがままな読者です。この本の登場人物たちと別れるのが辛いよ。

それにしてもネンノグのグロテスクな姿はあまりにもあまりにも・・・恐ろしいより可笑しいです♪