家なき鳥

家なき鳥 (白水uブックス)家なき鳥
グロリア・ウィーラン
代田亜香子 訳
白水社
★★★★


インドの物語。しかも現代の物語だそうです。
主人公コリーは13歳でお嫁に行きます。
結婚式の当日初めて会った夫は少年。しかし彼は病気で余命いくばくも無い状態。・・・なのに結婚したのは、彼の両親が、彼をガンジス川に清めの旅に連れ出すために、コリーの持参金をあてにしたため。
まもなく夫は亡くなり、コリーはサス(義母)にいじめられ、こき使われたあげくに、未亡人の町に捨てられてしまいます。
びっくりの身の上ですが、こんなことはインドではめずらしくもないのだそうです。

さて、それではさぞや暗い悲しいお話であろう、と思うでしょうが、コリーの一人称語りは、自分の運命を客観的に、また楽天的に描いていて、「お涙頂戴」的な要素はまず無いのです。そして、次々に色々なことが起こり、おもしろくて先へ先へと読まずにいられないのです。(実際割とすんなり読了しました)

未亡人の町にたったひとり、施しを受け路上に眠ることを余儀なくされたコリーでしたが、ここから俄然おもしろくなってきます。
コリーの持ち前の楽天的な性格、客観的に物事を見る目、そして、向学心、強さ、さまざまな彼女のプラスの性格が、彼女を自立へと、新たな人生へと導いていきます。

コリーの武器は二つ。
実家にいたとき母親にみっちり仕込まれた手仕事(刺繍キルト)の巧みさ。
読み書きができること。婚家で、サッサー(義父)が内緒でこっそり教えてくれた文字の読み書き。読める、ということが彼女の人生を照らし出します。サッサーの形見として大事にしていたタゴールの詩集は、どんなときも彼女を照らし続けました。
  >サスは本のよさなんかわかっていなかった。
   ・・・
   でもサスがなんといおうと、本に書いてあるひみつはもうあたしのものだ。
   あたしからうばおうとしてもそうはいかない。
本を読めることにより、色々な角度から物事を考えることができるようになること、また大きく世界を広げることができること、をコリーによって、私は改めて教えられたような思いです。

そして、コリーに未来を切り開いてくれた手仕事の芸術性の高さ。夢中になって、刺すコリーの図案は彼女の過去の大切なもの、思い出の風景や、詩からのイメージ・・・読んでいるだけでわくわくしてくるのです。

もちろん運もありました。だけど、その運を自分に引き寄せることができたのは、自分の持っているものに対する自信だったと思うのです。

日本では忘れられた「姥捨て」がいまだ生きているインドの貧困。女性の地位の低さ、というよりきちんと教育を受けていないことにより自分の権利が守られていないことにも気づかない、気づいても何もできない。
でも、日本がなくしてしまったものもまた大切にされているようにおもいます。キルトのような伝統工芸が高い芸術的水準で母から娘に伝承されていくこと。信仰心。そして、ひどい人間もいるけれど、「お互い様」の助け合いの心が広く残っているようにも思うのです。

この本の最後のページで、コリーは上等のキングスモスリンに刺繍をします。その図案は「我が家に向かって飛んでいく家なき鳥」・・・タゴールの詩集からとられたものでした。