世界でいちばん幸せな屋上 Bolero―ミルリトン探偵局シリーズ〈2〉

Bolero―世界でいちばん幸せな屋上 (ミルリトン探偵局シリーズ 2)世界でいちばん幸せな屋上 Bolero―ミルリトン探偵局シリーズ〈2〉
吉田 音・著
坂本真典・写真
筑摩書房
★★★★


「夜に猫が身をひそめるところ Think」の続編です。
あいかわらす黒猫シンクは円田さんのもとにいろいろなものを運んできます。いや、それだけではなく、円田さんのもとからも運び出していたのです。
いったいどこへ?
えーっと、ちょっと複雑で、文字にするのは面倒なのですが、「シンメトリー」の重なり合う場所がポイントのようです。「あちら側」と「こちら側」の境界になっている・・・その昔泣かされた学習した幾何の「線対称」、「対称軸」という言葉を思い出します。・・・対称軸を越えると、シンクがボレロに変わる・・・ああ、猫って不思議だなあ。(うちの庭を我が物顔でのし歩く野良猫くんたち、君はいったいどこで何をしてくるんでしょうねえ。どんな人にあって、なんと呼ばれているんでしょうねえ)

相変わらず、「こちら側」の音ちゃん一人称語りの日常、そして、「あちら側」の4つの短編。(目次もまたsideAとsideBに分かれたすみずみまで凝った趣向です)
「あちら側」の短編それぞれが、いくつかのキイワードと、場所、人、とともにリンクしていることがとてもおもしろいのです。
ああ、ここでこの人とこの人が繋がるのか、この場所とこの場所がつながるのか、この人とこの人の噂がこんな場所で・・・と。しかも、それぞれが、遠い思い出の余韻のうちに語られるのが霧の向こうの話のようで、気持ちよく不思議に酔ってしまいます。
どこにでもかならず現れる赤い首輪の黒い猫の影とともに。
また、さらに、これら「あちら側」の物語が、前作以上に「こちら側」と深い繋がりを持ってきます。合言葉は、黒猫、ボレロという名のカフェ、古いレコード・・・
そして、「シンメトリー」の不思議。
鏡の国のアリス」のお話が引かれていたりしましたが、まさに、鏡を通りぬけて、あちらからこちらへ、こちらからあちらへ、と繋がっていく感じ。
思えば、「Thnk」というタイトルの一巻と「Bolero」というタイトルの二巻。このうちの一冊を鏡に映したら、写っているのはもう一方の本だったりして、と思えるような・・・まるで表裏のようで、2冊揃って一冊、ともいえるような本でした。




〜〜ここからは、この本を読まれたかただけ☆ネタばれ(?)します。ゴメンナサイ〜〜

この本を13〜14歳の少女が書けるはずがない。
この本を書いた13歳の少女は存在しない。(断言してしまっていいと思います。)
だって、読めば読むほど、特に「あちら側」の短編を読むほどに感じるのです。これはどう考えても大人の感性です。
では、吉田音とは何者なのでしょう。
わたしは、この本を読み終わったら明らかになる、と思っていました。でも、やはり、最後まで煙に巻かれて終わってしまいました。で、またまたわからなくなってしまったのでした。(だけど、これを書いた吉田音は13歳の少女ではない。それは確か・・・でも、これだけたくさんの妖しげな匂いを散りばめておいて、「さあ、どうでしょうか?」と言わんばかりに知らん顔を決め込んでくれるところが・・・うーむ、悔しいけど粋なんだよね)

一巻「〜Think」でわたしが推理(←な〜まいき^^)したこと。
実は、音ちゃんは“猫”ではないか、と思ったのです。
吉田家の猫ちゃんです。きっと「音」という名の賢そうでかわいらしい雌猫がいるにちがいない、と。娘のように愛されて家族の一員になりきっている音ちゃん猫。
一巻を読んだときにはそう考えて疑っていませんでした。
だって・・・
羽根木の森を愛する13歳。
森の木に登る子供はヒトの子だとは限らない。
森の先の図書館に通うのは、本を借りるためとは限らない。
また巻末の風景写真の、あの低い目線からの俯瞰は、ヒトの目の高さではない。
猫に本が書けるか? 13歳の少女以上に無理だろう(笑)
ええ、そうです。書いたのはたぶんご両親。クラフト・エヴィング商會でしょう。音ちゃん猫の視点で書いたのよ♪
根拠。
巻末の作者紹介のページです。ここには「吉田音」「吉田篤弘・浩美」「坂本真典(写真)」と三つの名とその名の下にそれぞれの略歴が記されているのです。普通なら「吉田音」「坂本真典」の二つの名で充分ですよね。ご両親の名について触れるのであれば「吉田音」の略歴の末尾に「なお父と母は・・・であり、コレコレシカジカの活躍をしている」と一行添えれば充分のはず。
わざわざ著者として名を連ねるところが妖しい〜。

だけど、二巻のこの本「〜Bolero」を読んでいるうちに困惑。
音ちゃん、受験勉強ですと。高校受験を控えているのですと。
自転車を漕いでおでかけもします。
少なくても、そんな猫はいませんさ。こりゃ深読みしすぎでしたかいな。
うーん、またまたわからなくなってしまった。
吉田音ちゃん、あなたはだれ?あなたはほんとにいるのですか。