夜に猫が身をひそめるところ Think―ミルリトン探偵局シリーズ〈1〉

Think―夜に猫が身をひそめるところ (ミルリトン探偵局シリーズ 1)夜に猫が身をひそめるところ Think―ミルリトン探偵局シリーズ〈1〉
吉田 音・著
坂本真典・写真
筑摩書房
★★★★


ミルリトンとは「この世で一番おいしいお菓子」だそうです。
いまだ嘗て食べたことの無いまぼろしのお菓子の名前にちなんで、13歳の音ちゃんは、近所に住んでいる円田さんという青年とともに「ミルリトン探偵局」を結成します。
ミルリトン探偵局のお仕事、それは、黒猫シンクが、夜毎どこかから運んでくる不思議なもの(ボタン、からだじゅうにつけた小麦粉、メモの切れ端、釘・・・など)から、そこに絡む「物語」を「推理」するのです。「猫には猫だけがいける場所がある」を合言葉にして。
この推理に、正解はありません。その「物」の向こうに見える物語に気がつくのが楽しいのだから。
シンクの拾ってきたものが、それはそれは、素晴らしい写真になっています。どんな物語がここから考えられますかねえ・・・
音ちゃんの一人称で語られるお話は、シンクの拾い物を中心に、家族や円田さんとの日常が中心。
音ちゃんの住む町の雰囲気がとても素敵です。羽根木の森、森の奥の図書館。たくさんの猫たち・・・そして、モダンなのに、どこか古めかしくて、古いものが大切に大切にされているのを感じます。こんな町に住みたいよ。
そして、ときどき挟み込まれる3つの短編「久助」「奏者」「箱舟」は、それぞれにテイストが異なり、どれも独特の趣があります。そして、必ずシンクの拾い物のいくつかがさりげなく物語に挟み込まれ、「あれっ、これって・・・」と、あわてて、本の中から目指す写真を探し出したりします。
音ちゃんの日常とこの短編のバランスが絶妙で、なんとも不思議なテイストの素敵な本になっています。
装丁もかわいい。

音ちゃんは、クラフト・エヴィング商會吉田篤弘さんと浩美さんのお嬢さんです。(ということは以前にもちょっと聞いていました、が・・・)
この本1999年の発行、そして、音ちゃん(と呼んでしまっていいかな)は1986年生まれです。
ということは、この本のなかの音ちゃんそのまま、作者は13歳の少女なのです。13歳のデビュー作がこれです!
13歳の少女がこれを!
なんというセンス。そして独特の世界観。これは大人の目です。大人の洞察力です。こういうご両親のもとで育ち、ご両親の仕事を身近で見ながら生活すると、こういう類まれなお嬢さんに育つのでしょうか?
すごくすごく失礼なんだけど、もしや、お父様との共著なのでは?とも思いました。とくにあの短編小説・・・

だけど、・・・
実は、この本のなかほどまで読み進めていくうちに、ふっと疑問が・・・その疑問が大きく大きく広がってきて、もしかしたら・・・
最後の数枚の写真から・・・その目線から・・・どきどきしてきたよ。
ねえ、もしかしたら、もしかして・・・音ちゃん、あなた、もしや? もしや!?

・・・これは、読者にしてミルリトン探偵局補欠のわたしの大胆推理です。この本のなかのほかの推理と同じく正解はどこにもありません。
だけど、・・・・。
だけど、・・・・。
もしそうだとしたら?

・・・・おそるべし☆クラフト・エヴィング商會・・・・