らくだこぶ書房 | 21世紀古書目録

らくだこぶ書房21世紀古書目録らくだこぶ書房 | 21世紀古書目録
クラフト・エヴィング商會
写真・坂本真典
筑摩書房
★★★★


クラフト・エヴィング商會に、未来の古書店から古書目録が届きます。
砂時計をひっくり返すようにして未来の古書店「らくだこぶ書房」に本を注文すると、
一ヶ月に一冊ずつ、“未来の古書”(現代のわれわれにしてみれば、まだ出版されていない書物)が、届きます。


美しい本の写真とそれに添えられたその本の内容や周辺の説明。
どの本もとても凝っていて味があり、そして、こんな本があったらぜひとも読んでみたいものばかり。


たとえば、著者も版元も不明の「A」という本。
AはAnswerのAであり、この本の中には250もの「答え」だけが延々と記されているといいます。
 >「A1 もともと何もなかったのだから」
  「A35 うしみつどき」
  「A68 左から5番目の男」
質問が一切記されていないので、この「答え」から逆に、どんな質問の答えなのか想像するのだそうです。


「その話は、もう3回きいた」というタイトルの、厚い本。
何度も同じ話を繰り返すおしゃべり老人の話を世界中から集めた本だそうです。
3回話したくなるような話は「3回話すに値するとっておきの話」ばかりなんだそうです。
・・・だから同じ話を3回ずつ収録し、その上ですべてをシャッフルして編集してあるそうです。・・・ほんとうかなあ・・・
でもちょっと読んでみたいです。(でもどうぞ一回ずつにして)


「羊典」
表紙のとれたぼろぼろの羊にまつわる事典。この味のある古さ、ぼろさが美しい、すてきな写真。
眠れない夜のための本。次から次へと目の前を羊が通過していくのを数えるような読み心地であるらしいです。
そして、ラストページの最後の一頭は「眠る羊」、添えられた文字は小さなひとこと「おやすみなさい」


もっともっとすてきなナンセンス加減(?)の豪華な本たちがいっぱいあって、どのページもどのページもたまらなく魅力的なのです。
そして、最後に出てくるのが・・・なんとなんと・・・
そうです。これは未来から送られてきた本ですから。
そして、その読後の気持ちときたら・・・
不思議、砂に巻かれてこの実在する本そのものが、どこかへ消えてしまうような気がしてくるのです。


これは、もともと筑摩書房のPR誌「ちくま」に連載された記事をまとめたものだそうです。
PR誌! 
PR誌の一ページのためにこれほどまでに凝った仕事をするクラフト・エヴィング商會とは一体何者でしょう。
写真一枚一枚、よくよく見てしまいます。
素晴らしい装丁、凝りに凝っていて、ナンセンスでふざけていて、しかも美しいのです。
形も色も、挿画も。そして、開いたページの一枚一枚まで・・・印刷インクの色まで。
何よりも、手許にこんな本が一冊でもあるだけでうれしくなるような本ばかりです。
そしてそのタイトル、著者名にくすくす笑ったりわくわくしたり・・・
配された書評を読むうちに、この本をほんとうに注文して読んでみたい、という衝動に駆られるのでした。
重ねて言いますが、これが、すぐに捨てられるかもしれないPR誌の連載です。
・・・だからこそのこだわり、といえるんじゃないかな。これは壮大な遊びなのです。
これだけの時間と手間をかけ、体力知力、芸力(?)の限りを尽くし、後に残すことを考えない、
うーん、なんと粋なこと。
なんというかっこよさでしょうか。