絵描き

絵描き絵描き
いせひでこ
理論社
★★★★★


この絵本にどんな感想を書けばいいのか、どんな言葉を添えればいいのか・・・
横長の画面に、ほんとうに最小限の抑えに抑えた文が添えられている絵本です。
読めば、数分で読み終わる絵本です。
だけど・・・
この絵本の奥行きは限りなく広くて深いのです。


絵描きがいます。画家ではなくて、絵描き。とりすましてもいないし、偉そうでもない、その言葉が肌になじむ感じ。
絵描きは孤独です。だけど、いつも見えない誰かと対話しているように思えるのです。そしてどこかで人と繋がっている。

 
静かな本です。抑えた言葉はやさしいことば。しずかなことば。ゆったりとしたことば。
だけど、そのことばたちがあらわすのは激しい情熱。画面からあふれて限りなく広がる思いです。
画家いせひでこの思いが絵となり、画面からはみ出して、ぐーんとせまってくるのです。
描きたい、描きたい、描きたい・・・
世界は限りなく広がり美しく、神秘に満ちて、画家に手をのばしているように思えるのです。
旅の風景を写し、
あてのない手紙を書き、
音楽を奏でるように描き、
ほとばしる記憶の洪水に圧倒されたり、
描き過ぎてわからなくなったらじっと立ち止まってみる。
そしてやっぱりキャンバスに向かう。
・・・そして、一見静かだけれど猛々しいまでの情熱は、舞い上がり、空に吸い込まれていく。
空はあまりに大きくて深い。そして静か。
見とれて、ほーっとため息ついてしまった。



・・・わたしも描こう。絵筆もキャンバスもないけれど。わたしのキャンバスは「生活」という名。
丹念に生活を素描し、この日々に色を置いていく。これが私の絵。
永遠に未完成かもしれない絵。でも様々な色を重ね、思いのままに筆を走らせていく、私だけの絵を描いていく。私の日々。