かもめ食堂

かもめ食堂 (幻冬舎文庫)かもめ食堂
群ようこ
幻冬舎
★★★

(表紙のかもめの絵がかわいい♪)


「本書は初めて映画のために書き下ろした作品」だそうです。やっぱり映画、見なくちゃ、ですねえ。


でもこの本もかなり好きです。
フィンランドで食堂をやりたい、と思っている女性に宝くじで大金が当って、
彼女は、ほんとに単身フィンランドに渡り、ヘルシンキで食堂を始めて、そこそこの成功をおさめます。
と、言ってしまえば実もフタもないですね。なんじゃ、そのありえない設定は、と思いたくなります。
・・・だけど、ほんとうは、とても静かなお話なのです。
大きな事件が起こるわけでもなく、ゆったりとした日常が描かれているのです。


なのに、この本いいなあ、と思うのは、まず、主人公サチエの性格。
来る者こばまず、さらさらっと受け入れて、何事にも無理を通すことがない、この雰囲気。
すぐに、ではないけれど、じわじわと、、ゆっくりと、彼女のまわりに温かい人の輪ができていきます。
それも異国ですよ。フィンランドですよ。遠いフィンランドという国で、人々に受け入れてもらえるって大変な事だと思うのです。
その輪にいつのまにか、わたしもとりこまれてしまうのです。


サチエがフィンランドに渡る前に宝くじで一億円を当てるのですが、
こういう設定ってほんとはタブーでは?と思うのですが、これが唐突な感じがしないのです。
サチエがとても勤勉な努力家だから、「くじ運がよかった」という一文にも、「当れ」と素直に思ったしね。


また、彼女の食に対する考え方も好きです。
  >昔の食堂みたいに近所の人がやってきて、楽しく過ごして食べる物は素朴だけどおいしい。
  >華やかな盛りつけじゃなくていい。素朴でいいから、ちゃんとした食事を食べてもらえるような店を作りたい。
彼女の性格そのもの、飾らない普通の日本とフィンランドの家庭料理、心をこめて作る料理。
かもめ食堂の看板料理のおにぎりがとっても食べたくなりました。
梅、おかか、鮭。ああ、おなかすいたなあ。ふんわりとにぎったごはんにのりを巻いて。
いずれ食堂を手伝うことになるマサコさんの言葉。
  >私は自分で料理を作る暇がなくて、コンビニでおにぎりを買ってきたりもしたけど、
   あれはただおにぎり形になっているだけで、ご飯や具の味だけで、根本的な味が何もないのね。
   私が子供のときは、友達の家のおにぎりを食べさせてもらうと、その家の味がしたのよ。、
   同じご飯と海苔だけでも、全然、違ってた。
   そして同じようなおにぎりでも、おいしいのとおいしくないのがあった。
   ああいう人の手で直接握るものは、その人が出るのよね。
うーん、なんだかわかる。もうおにぎりひとつといっても奥が深い。ほんと、今すぐサチエのおにぎりが食べたい。

 
食堂を手伝う二人の女性、ミドリさんとマサコさんもよいです。
彼女たちが、なぜかヘルシンキにやってきた理由もなんとなく共感できるように思いました。
三人のチームワークもいいです。みんなそれぞれお人よしなんだよねえ。
どこか現代の都会のスピードにはなじめていないよね。
でも「かもめ食堂」では居場所がある。
そうして途方に暮れた彼女たちは、ここで働きながら元気になっていく。
ここにお客さんとしてやってくるいろいろな人々も通ううちに元気になってくる。
いい空間だなあ。こんな場所があるのがうれしくなります。


さまざまなお客様の中で、光を放っていたのは、なんといってもトンミくん。
ガッチャマンが出てきたのはびっくりだったなあ。)
現実に居たらわずらわしいだろうなあ、と思いつつ、どことなくお人よしで憎めない♪
・・・そう、彼がかもめ食堂で果たす役割ってとっても重要でした。