リトルベアー

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リトルベアー―小さなインディアンの秘密―
リード・バンクス
渡辺南都子 訳
小峰書店
★★★★


捨てられた古い洗面所用の壁掛け式戸棚、おばあさんの古い宝石箱についていた鍵、手で握ってしまえるような小さなプラスチックのインディアン(この呼び方についての付記あり)人形。
オムリの誕生日の夜、この3つが揃ったとき、魔法が始まります。
つまり、インディアンの人形がほんものの生きた小さなインディアンになるのです。
彼の名前はリトルベアー。16世紀のアメリカのイロコイ族の首長の息子でした。
オムリは、家族や友人には内緒で、自室で彼と一緒に過ごすことになります。

最初は驚き、とまどったりしたものの、やがて、二人の間に友情が芽生えます。
オムリは、えらそうだけれど誇り高いリトルベアーに尊敬さえも感じるようになっていきます。
この過程がとてもいいのです。
ゆっくりとさまざまなことを経験しつつ、互いに近づいたり離れたり、考えたり、・・・そして一段一段階段をのぼるように相手の気持ちに沿おうとし始める感じ、
ばらばらで結構勝手なことしているみたいで、はらはらさせられたりするのですが、(当然だ、16世紀のインディアンと現代のイギリスの少年が最初からうまくいくわけない)でも、どこか安心してみていられるのは、子供たち(やがてオムリの友だちパトリックも加わる)や小さい人(リトルベアーのほかにも現れます)がほんとうは優しくて、信頼するに足る、と信じられるからです。
この信頼は裏切られません。最後のページまで。

また、この小さなインディアンが、実際16世紀にいたイロコイという種族の青年であること、
そこからオムリがこの種族や歴史の背景などを調べる場面がありましたが、調べることにより、自分の偏見に気づき、自分たちとはちがう相手の文化を大切にしようという気持ちになっていくところなど、よかったです。
カウボーイのプーンが出現するのがそのあと、というのもうまいなあ、と思います。
当然起こる二人のいさかいとそれを乗り越えた友情の意味深さがしみじみと心に染み渡っていきます。

そして、その最後の章のなんともいえない満足感。しみじみとした幸福感。
登場人物それぞれとそれぞれが互いに最初に出会ったときと違う目で互いを見交わすようになったこと、そして、大切な人のために自分の何かを犠牲にしようとすること。
とてもまじめに温かく描かれていて、人間ってすてきだな、と思わせてくれるのが嬉しいです。

だけど、ここまでくるのに、なんとハラハラさせられたこと。
小さなカウボーイが現れたときにはぎょっとしたし、
何度も家族や校長先生にみつかりそうになり、「ああ、いつばれるんだろう」と思わされたり、
兄のねずみが逃げてしまったり(小さい人には怪物ですよね)、
もう次々事件がおこり、どきどきはらはらの連続。
そうした一つ一つの事件が、解決するたびにひとつひとつ、小さな信頼や友情が重ねられていくようで、ほっと温かな気持ちにつつまれるのです。

そして、最後に余韻を楽しみつつ、「魔法がもうこれでおわり、というわけじゃないんだ」というオムリの言葉を読者たるわたしは見逃しません。思わずにっこりしてしまいます。
続編!
またリトルベアーに会えるね。魔法がまた始まるから。


   *献辞偏愛*
素敵な献辞の呈された本が好きです。久々にごきげんな献辞に出会った♪
  >オムリに――きまっているでしょう!
ですって!^^