クララからの手紙

Klara
クララからの手紙
トーベ・ヤンソン
富原眞弓 訳
筑摩書房
★★★


頭痛がする、といいつつ、寝床にこの本を持ち込んだのでした。最悪のコンデションで読む本ではありません、これは。
こんな感想ですが・・・ごめんなさい。こういうのもあり、ということで、広い心で流してくださいませ。


以前読んだ「トーベ・ヤンソン短編集」とかぶる作品もある、短編集です。
なかでも、お目当ては「夏について」で、これは「彫刻家の娘」に続く物語といわれています。これが一番好きです。

「夏について」
一人称で語られる小品です。感情を表す言葉はほとんどなくて、ただ、「わたし」がやったことだけを列挙しただけの作品なのですが、これが良いのです。
この出来事だけの羅列のなかから、少女トーベの世界が立ち上がってくる感じがするのです。
トーベ・ヤンソンならではのするどい感性と強い個性を感じる文章・・・まさにヤンソンの少女時代、まさに「彫刻家の娘」の続きの物語。この居心地のよさはどうだ、という感じ。

居心地のよさ・・・そう感じたのは、実は他の作品をわたしは楽しめなかったからでもあります。「夏について」を読み、やっと見知った場所に出会ってほっとした、というのが正直なところでした。

「エンメリーナ」
これは結構おもしろかったです。これ恋愛物語といってもいいの?
いや、勘違い物語? 思い込み物語? 彼女は帰ってくるのでしょうか。ナンなんだ、彼女は。まあ、よくも煙に巻いてくれたことよ、と笑い出してしまいます。主人公より混乱して終わらされた読者はわたしです。じゃあ、まあ、この混乱を楽しもうかな、と。

どの作品もどこか少しずつ病んでいます。
親子の逃れがたい確執、友情の中に忍び込む違和感、日常の不安、もっともやもやとした苛立ちなど・・・そういったものが物語の上に投げ出されているような感じで、最後まで何の解決の気配もなく突然すっぱりと終わってしまう・・・
そして、あちこちに散らばるのはシニカルな苦笑い・・・
いやだ、なんだこの居心地の悪さは・・・

トーベ・ヤンソンはいったいこの作品群を誰のために書いたのでしょうか。ほかならぬ自分のために書いた覚書のよう。
読者が彼女の物語のなかに入り込むのをすっぱり拒否しているようにすら感じるのです。まあ、それがいっそヤンソンらしい、とも思ったりします。
この文章の感じは好きです。すぱっと突き放したような潔さは気持ちよいです。
潔い文章に身をゆだねつつ、「居心地の悪さ」をかみしめて、ひたひたとこの暗さにつかることを楽しめるかどうか・・・でしょうか。

それにしても、以前「トーベ・ヤンソン短編集」を読んだときはもうちょっと楽しめたんだけどなあ。今日の気分はきっとトーベ・ヤンソン風ではなかった、のかもしれません。