バタフライハンター

Bata
バタフライハンター 〜10のとても奇妙で素敵な仕事の物語〜
クリス・バラード
渡辺佐智江 訳
日経BP
★★★


バタフライハンターって何? 読まないうちから思う、その名からしてとびきり奇妙で素敵な仕事に違いないだろう、と。
こんな仕事を生業としている人たちがいるんだ・・・

たとえば「スカイウォーカー」
尖塔職人(?)マルホランド海兵隊での特殊訓練の経験をもとに「自殺向きのビル」の壁をのぼり、ビル上(たとえば屋上の旗ざおのてっぺんの滑車)の修理清掃を行い、スパイダーマンさながらに懸垂下降で降りてくるという。
芸術品ともいえる義眼をつくる「目玉職人」、どんな男たちよりも巧みにチェーンソウを操る「きこりレディ」、趣味がそのまま仕事になったものの人に会うのは大嫌いだという「鉄道模型製作者」・・・・・・

最初、この本を手に取ったときには、変った仕事のガイドブックかしら、と思ったけれど、とんでもない。
こんな仕事に就ける確立はすごく少ないし、第一どこでスキルを磨く?
プロフェッショナルたる彼らの弟子にでもなるしかないんじゃないかな。弟子なんてとってくれそうもないけど。
彼らは仕事を天職として、仕事を楽しむ以外に興味はなさそう。人にスキルを伝授しよう、とか後継者を育てよう、なんてこれっぽっちも思っていないみたい。
ただただずーっと好きなことをのめりこむほどに追求したら、いつのまにかここにいた、という感じでしょうか。
そんなことやってるから世紀の大発見なんてこともその道でなんとなくなしとげてしまったりする。
そして、みんな、ほんとに適所適材。だけど、もし他の仕事に就いたら、どこからもレッドカードをもらいそうな変人揃い。
よくこんな仕事に就けたなあ、幸せだなあ・・・のめり込むって素晴らしい。

印象に残るのは「アメフト伝道師」という称号(?)を筆者によって与えられたブレヴィンズ。
彼は世界有数のキッキングのコーチだという。・・・どこが他の人と違うのか? 彼は脳性まひを患い、ボールをけるどころかまったく歩いたことがないのだという。
なのに、キッカーを3分観察すればフォームを分解し、改造することができるという。
歩けないという事実は重要なことではないという。・・・すごい。
彼は言う。
  >なあクリス、障害者の身でただ一つ残念なのは、試合ができないことなんだよ。
   歩くことがなんだ。試合がしたかったなあ。
また、言う。
  >他人の言うことに耳を貸すな。誰もが役にもたたないアドバイスを与えたがる。
   他人の言うことなんかくそくらえ。自分がしたいことをすればうまくいく。
この本の中の10の不思議な職業人(あるいはきっと人生の芸術家!)はそうやって生きてきた人々。

惜しむらくは・・・文章のテンションが高くて・・・ちらりと感じたのは、天職といえども落ち込む穴が絶対あるはず。ちょこっと書かれてはいるのですが、もっと、悶々とした深みもしっかり書いてほしかったなあ。
見事なスーパーマン、わたしたちと地続きとは思えない。「へえーっ、そうなんだ」って感じ、それだけで終わってしまったのが残念かな。