ムーミン谷の冬

Mu5
ムーミン谷の冬
トーベ・ヤンソン
山室静 訳
講談社
★★★★


冬の森の静かで神秘的なイメージの美しさ。なんて美しい本。
暗くてりんと静まり返って、不思議で不気味で、奥がふかい、底の知れない、とてもとても美しい冬。
これが北欧の冬なのですね。
物語の前半は、ふいに目をさましたムーミントロールとともに、この神秘的な森を不安な気持ちで(でも、ごめんね、ムーミン、実はとても満たされて楽しみつつ)さまようのです。
あちらをのぞき、こちらを覗き、どこもかしこも静か。



物語のまんなかをすぎるころ、物語のイメージが変わってきます。
次々に現れる不思議なお客さんたちと、少しずつ近づいてくる春の気配のにぎやかさに、これもまた、あちこち鼻をつっこみたくなります。



おしゃまさん、いいですね。
  >あの子たちの冒険ときたら、いつもこんなものだわ。たすけたり、たすけられたりさ。
   その人たちをほんとうにあたためてあげるもののことを、いつか、だれかにかいてもらいたいよ。
そして彼女はおさかなのスープを火にかけるのですから。
いつもマイペースだけど、冷静で心優しいこの子が好きです。

目を覚ましたママ、さっさと何もかも片付けて、
  >あんたが、お客さんのせわをしてくれたおかげで、
   ママはどこへいっても、はずかしい思いをしないでいられるわ
という言葉も好きです。
ムーミントロールじゃなくても、
  >ママ、ぼく、とってもとっても、ママが大すきさ
といいたくなります。



美しい春。
冬の場面も美しかったけれど、人々が集まり、雪や氷がどんどん解けて春がいっぱいになる、この美しいフィナーレにほおっとなります。
そしてね、冬のさなかに、その寂しさや子リスの死(?・・・作者のかっこ書きがとても好き。「199ページをごらんなさい」ですってよ)などを通して、冬に向かって怒りをあらわにしていたムーミントロールが、ここで、冬を受け入れていることがとても素敵なことだと思うのです。
  >ぼくは、一年じゅうを知ってるんだ。冬だって知ってるんだもの。
   一年じゅうを生きぬいた、さいしょのムーミンとロールなんだぞ、ぼくは。

読んでよかった。
もうすぐスナフキンが帰ってくるんだね。