エセルとアーネスト

Esel
エセルとアーネスト〜ほんとうの物語〜
レイモンド・ブリッグズ
さくまゆみこ訳
小学館
★★★★★


風が吹くとき」「さむがりやのサンタ」「スノーマン」のレイモンド・ブリッグズの新しい絵本です。
「さむがりやのサンタ」のような小さなコマ割の、オールカラーの絵本です。
でも、この絵本は、104ページもあり、かなり読み応えがあります。

帯には、
  この本は、作者レイモンド・ブリッグズの両親・エセルとアーネストの伝記絵本です。
  牛乳配達の父とメイドだった母の出会いと結婚、息子レイモンドの誕生と成長、
  第二次世界大戦の苦難の日々、そして戦後のしずかな暮らし……。
  激動の20世紀を生きた庶民の歴史を、ユーモアをまじえて描いた感動の物語。

とあります。

胸にしみる物語を読んだ満足感に浸りつつ、いま、パソコンに向かっています。
ブリッグズは自分の両親の歴史を描きます。
それは、ユーモアを交えて、でも(きっといまは両親の年を越しているから)大きな愛と理解に満ちています。
両親は普通の人。大きな野望を持っていたわけではない、夫婦仲良く暮らし、一人息子を深く愛し、彼らの夢は、自分たちの生活の守備範囲を決して出ることはなく、ほんとに普通のひとたちでした。
そして、こうした普通の暮らしを書くことによって20世紀のイギリスの歴史をあぶりだしてもいるようです。皮肉や風刺も胡椒のようにまぶしてあるのがぴりっとして良いです。

世の中はすごい勢いで移り変わり、いやおうなく人々を振り回す。
強い風が吹いたら首をちぢこめながら、やわらかい風にはぐんと首をあげて、
ときに這い蹲ったり、おろおろしたり、でもうれしいときにはハミングしながら空をあおぐ
ちょっとばかりのユーモアを持って、でも堅実にね、明日は今日よりもうちょっとだけ幸せになろうと思う。そしていっぱい愛そう。

ああ、この世にはなんてたくさんのエセルとアーネストがいることか、と思う。
私たちの両親も祖父母も、わたしたちも。
こつこつと働き、堅実に暮らし、
ときに悲しみに打ちひしがれても、夢を語り、努力し、たくさん愛して、
普通に生きることの尊さ。

そして、名もないエセルとアーネストのひとりとしていつかわたしたちも眠る。
だれかがこのエセルとアーネストのために泣いてくれるだろう。
そして、このエセルとアーネストの暮らした家やこまごまとしたものをなつかしく振り返ってくれるだろう。
このエセルとアーネストが、あのエセルとアーネストにしたように。
それはずっと続いていく。
生活することの重さ、愛しさ、大切さ。すみずみまで人生への敬意に満ちて。