冬の龍

Huyunoryuu
冬の龍
藤江じゅん
福音館書店
★★★


神田川の龍は言った。もし、おまえに守りたい人間がいるなら、災いがかからぬように、なんとか雷の玉をさがし出し、六十四年後の大みそかが新しい年に変わるときまでに、その玉を奉納するがよい。…その日にまにあわなければ、私にもなすすべはない。―ぼくらの街に、龍が!?歳月の中に失われた幻の玉をめぐって少年たちの冒険が、いま始まる。
                                         (アマゾン・レビューより)


一気に読みきりました。おもしろかった。
時代は現代なのかな。ちょっと古い感じ。九月館という(すてきな!)下宿屋があり、人情豊かな人々がいて・・・なんとなく、「今」というよりももう少し前、もしかしたらわたしが子供の頃の下町のイメージなのです。
下宿屋の人間たち誰もがとても魅力的な人たちです。
少年たちの冒険というより、「雷の玉」を追って、龍の伝説などをさがして、色々な場所をめぐったり、色々な人に会ったり、いろいろな本を調べたり・・・物語はお行儀が良い感じで、きちんきちんと進んでいきます。

といいつつ、不満じみたことを言ってごめんなさい。・・・おもしろいけれど、なんとなくしっくりこないのです。
主人公のシゲルをはじめ、雄治、哲という三人の少年の個性が今ひとつ・・・特別に肩入れしたくなるような感じにはなりませんでした。
冒険より調べ学習、みたいな感じで、理屈っぽく感じてしまったのです。

それから、下宿人たち、ほんとうに魅力的な人たちなのに、これだけではもったいないです。
とてもすてきな本を作る編集者坂井さんと図書館員の栗田さんのこと、「書籍姫」の伝説にからめてあんなにチャーミングに書かれているんだもの、わたしはこの二人のこと、もっともっと知りたいです。
五十嵐さんとお母さんの葛藤も、なんだか中途半端で終わっています。もっとドラマとして何かないのかな、と思いました。
・・・また、この人たち、かんじんなところでなんで揃って風邪でダウンしちゃうんだろう。彼らのエピソードが宙に浮いた形で終わってしまっているようで残念でした。(単なる「隣人」ではなく、冒険に参加してほしかった)
だって今までさんざん彼らのエピソードを紹介してきたんですよ。期待してしまうじゃないですか。彼らは、この物語でどんなふうに活躍するだろうって。あんまりです。
たぶん!
彼らの物語があるはず。わたしとしては坂井さんと栗田さんの話希望。彼らの愛する本と「書籍姫」の伝説を仲立ちにして。
シゲルたちが駆け回る町の雰囲気も大好きです。