サンタクロースにインタビュー

Santa
サンタクロースにインタビュー〜大人のための子どもの話〜
エーリヒ・ケストナー 作
フランツ・ヨーゼフ・ゲールツ&ハンス・サルゴヴィッツ 編
泉千穂子 訳
★★★


ケストナーの短編集です。まだ出たばかり。しかも、カバーイラストはミヒャエル・ゾーヴァ
なんときれいな本。この本を手にして心が躍りました。これはもっとクリスマスが近づいたら読もう、それまで大切にとっておこう、と思っていたのですが、やはり待ちきれないで、読んでしまいました。
これは。
これは想像していたのとは違っていました。
タイトルから勝手にクリスマスの温かくて明るい本だと、さらに、ケストナーの機知に富んだユーモアが詰まった本だと想像していましたが、全然違いました。
皮肉、暗さ、冷たさ、惨めさ・・・
これは、主に初期のもので、この本にまとめられなかったら、おそらく忘れ去られただろう作品ばかり、しかもケストナーの暗い一面を示す作品集でした。

ケストナーは、
子どもの勇気や善良さを心から信じ、温かく応援する、子どものためのたくさんの明るい作品がある一方、
暗い面〈そして時代や社会に対する厳しいまなざし)を持った人でした。
その両方のバランスをとるために、こういう、まるで書き散らしのような作品もあるのでした。
彼が常に善良であるために、吐き出さなければならないものがあったのかもしれません。

全ての作品がクリスマスストーリーではありません。
でも、いくつかのクリスマスストーリーが含まれています。
でも、これをクリスマスストーリーと呼ぶにはあまりにも寒々としています。
表題作「サンタクロースにインタビュー」は、最初童話のようなホットな感じで始まり、あとに苦い不信感が残る感じ。

楽しい作品もありました。
「鉄棒をする女の子」、ギムナジウムの少年たちの度を越えたバカ騒ぎとウェットに富んだ結末に、思わず頬がゆるんでしまいます。
それから「「また過ぎていくこと」が好き。
それぞれに惨めで切ない夫婦、相手を責めていいのか自分を責めていいのか・・・でも、お互いにやるせなさを認め合う一瞬がいいんですよね。

また、副題「大人のための子どもの話」となっているとおり、この本のなかにはたくさんの子どもがでてきます。
彼らは、みなケストナーの子ども時代の、屈折した面の似姿のようです。
特に「模範生」、なんと皮肉な物語。
クラストップで「模範生」と呼ばれるようになった少年のことを「急いで成長したために魂がひ弱になってしまった、あの大人子ども」と侮蔑をこめて呼びます。
子どもは出てきますが、これは子どものための本ではない、あまりに残酷です。
ケストナーの闇はこんなに深いのか、と心が痛むのです。

でも、読んでよかった。
こういう暗いところから、明るいほうに目を向けて、常に子どもたちに幸福のメッセージを送ろうとしたのではないか、と信じられるから。
暗い屈折した世界を知っていたから、明るい世界を描くこともできたのだ、と想像できたから。

消えていくはずだったささやかな作品たちを集めまとめてくれた編者に感謝です。