青年のための読書クラブ

Seinen_3
青年のための読書クラブ
桜庭一樹
新潮社
★★★★


タイトルに惹かれたのでした。「読書クラブ」ですから。
しかし、こんな話とは想像だにしませんでした。

マリアナ学園。幼稚舎から高等部までが同じ敷地内にあるカトリックの修道会が運営する女子校。3歳から18歳までの良家の子女たちがしずしずと通う。
  >学園内は外から見れば薄絹のようなヴェールで包まれて、とうの女学生の生態は杳として知られなかった。
その閉ざされた独特の世界。

学園の表に出ない歴史が、高等部読書クラブメンバーのだれかによって、そのクラブ誌にひっそりと綴られる、連作短編になっているのですが、構成がおもしろいです。それぞれの章がリンクしながらも、全部読み終えて初めて全体のつながりが見えるしくみ。

しかも各章の主題(?)が、欧米の古典のなかの一文からとられている。
この文が章の頭に掲げられていて、これが各章のなかでどのような形で表れるか興味津々というわけです。いわくシラノ・ド・ベルジュラック。いわくマクベス

また、クラブ誌ですから、書き手は学生であり、各章のおわりに「文責だれそれ」とサインがあるのですが、このサインは生徒の本名ではなくニックネームとなっています。
このニックネームを見たとき「あっ」と思わせてくれる運びです。
つまり、その章の事件で必ず登場する人物、しかし第三者であり、登場した瞬間に読者に忘れ去られる存在の人物なのですが、実は実は、このサインまで読んだとたんに、「こいつがキイマンか!」と初めてうなるようになっている、うーん、にくい構成。
絢爛豪華なからくり箱をもらったような気持ちでした。

伝統一貫教育の学校、閉ざされた世界、外の世界とは一線を画し、独特の文化がうまれ、踏襲され、磨かれていき、独自の社会が形成されていくのは、当然の成り行きであったこと、
さらに、思春期の少女たちが、大人の女でもなく、子供でもなく、独特の中性的存在だってことも、
この学園の、この本のなかの摩訶不思議な空気を生まれさせた要因だったことでしょう。
し・か・し・・・
なんという不思議な世界。
この本全体にただよう不思議な空気。
耽美重厚にして下品。清純にして背徳的。高尚なのに下卑ていて、荘重にして軽薄。
そして、そして、なんなの、このゴシックなばかばかしさは!(←モチロンほめ言葉ですとも)
一章、P23。
  >教室に一人、男がいる。
もはや笑うしかないのでした。

この不思議な雰囲気に悪酔いしそうで、しばし現実を忘れてしまいそうです。
作中で引用されていたマクベスのなかのせりふをここに、引用させてもらおうと思います。

  >きれいは穢い、穢いはきれい。
   さあ、飛んで行こう、霧のなか、汚れた空をかいくぐり。
まさに、この本の雰囲気そのままだと思うのですが・・・

最後の章がよかったです。
学園が変わろうとしている。これは初めから予言されていたことであり、かわらないものはないのですが・・・
ひとつの静かな時代が終わる。死んで生まれる。
学園もまためざめるのでしょう。中性的な思春期を終えて。
少女たちが大人になるように。