一瞬の風になれ 1(イチニツイテ) | ☆一瞬の風になれ 2(ヨウイ)☆☆ | 一瞬の風になれ 3(ドン) |
「一瞬の風になれ 1〜3」 佐藤多佳子 作 講談社
2007.夏。読了 ★★★★
1巻→2巻→3巻と、巻を追うごとに本がどんどん厚くなってくる。
それに反比例するように、本を読むスピードは、巻を追うごとにどんどん速くなってくる。走ってる!
まさに「イチニツイテ」「ヨウイ」「ドン」!
決して強くない普通の公立高校春野台高校陸上部に入部した一之瀬連と神谷信二。
かたや生まれながらの天才スプリンター。もうひとりは紆余曲折の努力型――こちらも天分に恵まれている。
全く違ったタイプの二人のチームメイト兼ライバル(?)を中心に、
互いにこすれあい、切磋琢磨して、倒れたり、やけになったりもしながら、成長していく高校生たちの三年間。
歯切れの良い小刻みなセンテンスが続く文章。
若者独特の言い回しなんだけど、短く切った言葉の羅列が、むしろ歯切れよくて気持ちがいい。
すごい。すごい。
スピードや風を文にすることができるんだ。この作家は。
読みながら、どきどきして、顔をあげて、ほっとして思う。
「あ、私、今走ってなかった? 全力で。で、軽々と風に乗ってなかった?」
やたら涙腺がゆるんでしまう本でもある。部活、いいねえ。
>「春高、ファイトーッ!」
これだけで涙出ちゃうおばさんって・・・
「かけっこしよう」「勝負しよう」という言葉、「走りてぇ」という言葉、いいね。
そう、ただ走るだけなんだよね、それも短距離。一瞬でおわってしまう。
その一瞬の風の中にこんなにたくさんの色がある。匂いがある。
根岸、谷口、三輪先生、
桃内、鍵山、守山さん、健ちゃん、
それからもっともっと他にも、みんな豪華なすてきな脇役たち。
いいのかな、できすぎだよ・・・でも、今は、素直にみんなの輝きとチームワークの素晴らしさに感動していたい。
人間関係のどろどろした部分をできるだけ省略して、ただひたすらに走ることだけをみつめて。
彼らに会えてよかった。4巻、5巻・・・もしあるならば、もっと彼らといっしょにいたかった。
それからもうひとつ。
なんだかみんながまぶしくて、うらやましくて。
自分の前に伸びたひとつの道がしっかりと見えていて、
そこを遠くまで歩く決心をしていて、その道を見るとわくわくしている彼ら。
もちろん、このさき、たくさんの挫折を経験するだろう、決して平易な道を歩くわけではない。
それでも自分で選んだ道がある。
そんな彼らがうらやましい。
上昇気流にのってのぼっていく。そんな感じの本。
この本読んでるあいだじゅうわたしもテンション高かったな。
実に爽やかな読後感。
さらに、7月にこの本読了して、その後テレビで見た世界陸上はことのほかおもしろかった、というおまけつき。
>俺のレーン、俺の道。俺の行く道。俺の走る道。まっすぐな道。・・・・・・
>1本、1本、力が出せるように。自分の走りをして、また、いい勝負ができるように・・・