Sarah, Plain and Tall

Sarah, Plain and Tall / Patricia Maclachlan(著) / Trophy Pr  


邦訳「のっぽのサラ」で出ている。(その感想はこちら。)

ゆっくりと流れる時間や、季節の移り変わりを風景や空の色で描写する…なんと美しく静かな優しい文章。

死んだママをなつかしむAnna、ママのことを覚えていない弟のCalebはくり返しママの話を聞く。ママが歌った歌の話を聞く。そして、ママが死んだ日から決して歌わなくなったパパ。

広い広い草原の中の一軒家で牛と羊を飼うこの家族のもとにSarahはやってきた、歌声とほがらかな笑いとともに。けれどもSarahはいつでも生まれ育ったメイン州の海を恋しがっていた…

この物語の語り部はAnna。彼女はしっかりものだ。家事をこなしママをなつかしむCalebにくり返し話してやる。Calebは自分の思いをみなAnnaに打ち明ける。Annaはそれを静かに受け止める。
この物語の中で、一度もCalebと喧嘩をする場面はでてこない。彼女が声を荒げたり、わがままを言ったりする場面もでてこない。
いつも自分の感情を抑えて抑えて、彼女の感情は、ときどき控えめに1〜2行の短い文で書かれる。これが結構痛い。

それぞれが、自分のなかに何か強く強く望んでも満たされないものを持っている。それはCalebにとって「歌」であり、Saraにとっては「海」。歌も海も、自分のなかで満たされない、欠けた思いの象徴。

Sarahと一緒に歌う歌。“Old ones and new."がいい。古い歌を忘れる必要はない。古い歌はずっと、そしてこれからも新しい歌といっしょにある。新しい歌といっしょに歌えばいい。
この家族の静かな幸せを嬉しく思う。
Sarahはこの家族の新しい歌。

光のシャワーをあびたようなさわやかな感動。ほんとうに易しい単語、易しい文体なんだけど、「優しい」気持ちが行間に一杯詰まっている。
…ただ、欲をいえば、もう少しパパJacobの気持ちを踏み込んで書いてもよかったのではないかな。パパのSarahに対する気持ちがなんとなく淡白で、今ひとつ見えてこなかったような。