The Old Woman Who Named Things

The Old Woman Who Named Things / Cynthia Rylant (著)/ Kathryn Brown (絵) / Voyager Books


絵本です。
ある老婦人の話。
彼女の友人たちはみな天国へ行ってしまって、彼女だけが生き残っています。
彼女は自分の身のまわりの「物」たちに名前をつけます。彼女の古い車は"Betsy”彼女のいすは"Fred”彼女のベッドは"Roxanne”…と言う具合。こういう「物」達は、彼女だけを生き残らせて先に死んでしまう、ということが決してないからなのです。

この暮らしでの彼女の本当の気持ちが書かれていません。そのことが返って彼女の気持ちを語っているように思います。
一見充実した日々に見えるのですが、
彼女のなかにあるのは、残されること、残されることで自分がひとりぼっちになってしまったと感じることへの怖れ。そのことに気がつかないようにしようとしている。自分の寂しさに真っ向から向き合うことから逃げているのだと思います。

ある日、彼女のもとにおなかをすかせた一匹の子犬が現れます。毎日やってくるのです。でも彼女は名前をつけません。食べ物だけを与えて帰します…

年をとり、知った人たちが次々に亡くなり、自分だけが後に残される寂しさをわたしがどのくらい知っているというのだろう。この老婦人の寂しさ、その寂しさから自分を守ろうとする頑なさに胸がいっぱいになってしまう。
子犬の登場とともに少しずつ変わって行く彼女の気持ち、そして、それを承知しながら怖れている彼女の気持ちがゆっくりと描かれていく。
見ようとしなかった自分の抱えている「恐れ」と彼女は真っ向から向かい会わなければならないときを迎えるのです。

静かにほんわかと描かれてはいますが、彼女は、この幸せを勝ち取るために、自分自身と葛藤し、戦ったのです。逃げていたものと初めて面と向かって渡り合ったのです。

あっさりと仕上げた水彩の絵がシンシア・ライラントの温かな物語にぴったりあっていて、よかったです。

それと、物に名前をつけることが好きなこの婦人の名前、これが最後まで一切出てこないことが、なんとも象徴的でありました。
この本のなかにでてきたたくさんの名前(一番最後に出てきた名前以外の)がいかに存在感のうすいものか、名前をもたないものがいかに濃い存在感を示していることか。