『神様がくれた指』 佐藤多佳子

刑務所を出所したばかりのプロのスリ辻牧夫。酒とギャンブルに目がない占い師昼間薫。
ある事件がきっかけで、共同生活することになった二人。 そして物語のはじめからチラチラと見え隠れするもののなかなか正体を見せない不気味な人物がいる。
偶然が偶然を呼び、このもう一人に向かって、二人はまったく別の方向から近づいていくことになる。

これ、ほんとに「しゃべれどもしゃべれども」と同じ作者の作品かしら、と思うほど印象の違う物語でした。だけど、読み終えた後に残るこの温かさとさわやかさ、そして一抹の寂しさには覚えがあります。佐藤多佳子さんなんだなあ、としみじみ感じます。

メインの二人の登場人物にまず惹かれました。
お天道様に顔を向けられない仕事をしているはずなのに、昔気質に義理堅く、並の素人さんよりもっと真っ当な感じのまさに好青年、辻。
「堅気」という言葉に首をひねりたくなるような自堕落さ、それなのにお人よしで、不思議な勘(霊感?)を持った昼間。
この二人が、短い期間共同生活することになるのですが、この二人のつかず離れずの関係がいいです。能天気な会話も好き。
そして二人をめぐる人々のどこか懐かしい人情味。夏の暑さのなか、ふっとさわやかな風に吹かれたような爽快感。
これが、彼らの対峙するスリグループの少年たちと、対比して、互いを際立たせている。
スリ少年たちの酷薄な感じ。彼らは妙な選民意識を持ちしっかりチームワークを組んだ仲間であるのに、ひとりひとりに強い孤独感を感じました。

最後まで夢中で読めました。それぞれのせりふもその人らしくていいし、まさかまさかの展開もいい。最後までひたすらおもしろかった。

そして、エピローグ。
そうか、こんなふうに終わるのかあ。かっこいいけど、さわやかだけど、ちょっぴりさびしい。
続編希望です。