『 陽気なギャングが地球を回す』  伊坂幸太郎

  >嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、正確な体内時計を持つ女、
   この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった…
             (後略 ~カバー裏のレビューより~)

一人ずつばらばらにしたら、ただのうさんくさい変人、かもしれない。少なくても存分に自分の能力の恩恵に浴することなんか出来ないに違いない。だけど、四人集まって能力を活かしあえば、こんな爽快なことができる。おもしろい、おもしろいよ~。

思い出すのは、グリムの昔話の「うできき4人兄弟」
その道(天文学者、仕立て屋、泥棒、鉄砲撃ち)の達人となった4人兄弟が、それぞれの能力を活かしあい、協力しあい、さらわれたお姫さまを助ける、あのお話。
「陽気なギャング…」にもどこか御伽話めいた面白さを感じた。なんせ銀行強盗が主人公、リアルな世界だったら、結構シビアな話になるだろうに、彼らに思い切り肩入れしたくなるのだから、現実味はまるっきりありません。ひたすら楽しい。なんとも小粋な御伽話。とにかくすごくカッコイイ四人です。

この「うできき四人」は、あっちこっちが別のあっちこっちと繋がって、「へえー、あれがここで使われるのか」「あの会話はこのためのものだったのか」って感じで。ぼんやり読んでても、パズルをはめこんで一枚の絵を完成させる楽しみを味わえるのもうれしかった。
しかもちゃんと4人がその能力を活かしきって活躍してくれるのがいい。
妙な人間は妙なネットワークを持っているもので、人並みはずれた交友関係などもあって、007か?と茶々入れたくなる。(ますます現実味から離れて、無責任に思い切りギャングたちに肩入れできる。)
最初から最後までずーっとおもしろいけど、なんといっても第4章。どんでん返しのお返しのお返しの…この爽快さはたまりません。

そして、テンポ良しセンス良しの会話がいい。彼らの御託をずっと読んでいたい気分だ。小粋な会話が彼らの個性をしっかり反映してくれて、くすっと笑わせてくれる。彼らの能力よりも、彼らの性格が好きだ。この会話だけでもこの本読む甲斐がある。いえ、もちろん、ストーリーがおもしろいんですけど。
章のなかの細かい章(?)ごとに、辞書の一部のような感じでその章のキイワードとおぼしき単語の意味など書かれているがこれがまた傑作。これだけでもこの本を読む甲斐がある。いえ、もちろん、ストーリーがおもしろいんですけど。

あー、おもしろかったなあ。とびきりご機嫌な仲間とご機嫌な旅行から帰ってきたような気分♪