『ガラスのくつ』  エリナー・ファージョン

ファージョンがお芝居のために書いたシンデレラ物語。ずいぶん久しぶりの再読です。
このシンデレラは不幸に耐える素直でおとなしい女の子ではありません。ほがらかで、悲惨な生活のなかから楽しみを見つけ出そう、とポジティブなのです。
そのことばかりが印象に残っていて、主人公エラの生活の悲惨さを忘れていました。いまさらですが「やっぱりシンデレラだった」と思ったのでした。
雪の中に薪をさがしに出されるところは、「十二の月の贈り物」のマーシャを思い出しました。また、舞踏会の夜、エラが、ひとり残された台所で遠ざかって行く鈴の音を聞いている場面はせつなかった。

おもしろい脇役は王子様の側に仕える「道化」
無邪気な赤ん坊のように見えたり、賢者のように賢い老人のように見える「道化」の本当の心は決して明かされることなく、最後まで端役として、その役柄を全うします。
そういえば、シンデレラに魔法をかける妖精もしわくちゃのおばあさんの姿で現れたかと思うと若く美しい女性の姿に変わったり。本当の姿はどっちかな。
シンデレラ自身も、初めて会った王子に、「あなたは、楽しい人生をおくるように生まれついていらっしゃる。それなのに、心では泣いている」と言われたりする。
その人のことは見た目だけではわからない、ということでしょうか。

主人公が「エラ」という名前を持っていることも、よかったです。「シンデレラ」がどこだかわからない所の昔話ではなくて、身近にいる女の子の物語になったようでした。

お城の舞踏会のシーンや、シンデレラのふたりの義理の姉の会話など、どたばたした感じで軽い感じがするのですが、上品でやさしく美しい文章はやはりファージョンでした。