『西風のくれた鍵 』 アリソン・アトリー 

ピクシーや魔法使い、西風や北風(の精)などが出てくる。昔話のようなお話が6編。
どのお話も運びがおだやか。悲しい場面や辛い場面も当然出てくるのだけれど、そこまで深刻になるわけでもなくあっさりと歌うように流れて行く。
どのお話も「めでたしめでたし」で終わるのだけれど、美しいディテールの数々が印象に残る。

霜の王の宮殿をころころと駆け回る雪娘、とか。
うす青いお酒を飲むと人間だったことを忘れて長い年月を楽しく過ごすピクシーの花嫁、とか。
かえでや樫の木の鍵をあけるとその木のほんとうのすがたが見えたり…
ゆっくりと楽しみ、ああ、いい時間をすごした、と思える本。

好きなのは「幻のスパイス売り」
スパイスを売るおばあさんのよびかけの歌声の楽しそうなこと。それからおいしそうなスパイス入りのお菓子は、名前を聞くだけでもうれしい。
スパイスの木のしげる庭、どんな風景なんだろうなあ。その木の根元にすわってみたい。
「ピクシーのスカーフ」のいたずらぼうずディッキーがピクシーにもらったビー玉。
ビー玉としてもらったものが実は宝石で、ことに血のように赤いルビーで出来たビー玉は決して狙いをはずさない、とか。
こんなビー玉、何に使うとかじゃなくて持っていたい、と思うよ。

「鋳かけ屋の宝もの」にでてくるぺナテスという像も魅力的だ。
子供達が金物の切りくずやきれっぱしをもって小さな(ままごとの)シチュ-鍋やフライパンを作ってもらいにくるのを、楽しみにしているぺナテスがいいな。