『長新太のチチンプイプイ旅行』  長新太

妙な旅日記です。
世界中どんなところへも、片田舎の小さな町から大都会、砂漠の真ん中だったり、海のまんなか、山のてっぺん、それどころか、野菜の中やらモグラのトンネルのなか、さらに、ちょっとなんだかわからない妖しい場所。
長さんはどこにでも旅をします。

これは漫画+えーっと、エッセイ?でたらめ話?というか、素晴らしい奇想天外の法螺話の連続。
なんだこの壮大なばかばかしさは。時間をかけて読む意味があるのか。いや、ないからいいのだ。と、片付かない食卓で、帰りの遅い家族を待ちながら読むにはなかなか乙な時間つぶしです。
というより、この不可思議空間の旅行を思い切り愉しみました。
ホタルブクロのなかでゆらゆらするのもいい、ながーくのびてしまった鼻の先をソーセージと間違えてだれかに胡椒かけて食べられてしまうのはちょっとこわいけど、なかなかスリルがあるではないか。もっとこわいのは、自分がたこやきになってしまうこと。
それから、外国の某ホテルで男をジャムにしてしまう女に見込まれてしまうのは、ホラーっぽい体験といえるかも。
あー、こんな日記が書きたいなあ。でも書けない。長さんの頭のやわらかさ、自由さ、思い切り広がる想像力とそれを表現するセンスにひたすら感服してしまいます。
そして、あちこちにちらりとこぼれおちるさまざまな雑学の豊かさにも。ほんとうにいろいろな事をご存知で。しかもそれをそのままではなく、あっと驚く方法で料理して食卓に出してふるまう。いいなあ。

ちょっと長いけど、お気に入りのあとがきを抜粋。

  >灰色の雲海の中を、飛行機が飛んでいる。
   この飛行機は観光会社のガイドには乗っていない夢幻の国へ向かっている。
   乗客はみんな無言で、生きているのか死んでいるのかわからない。
   この飛行機だってどこの国のものやらわからない。
   物事は見えたとおりではない。それを確かめるための旅である。