雪深いロシアの森のなか。猟師のピーターおじいさんの家のなか。かまどはごうごうと火が燃えている。
夕飯のあと、おなかいっぱいの炉べ゛で、二人の孫とエスキモー犬と黒猫と過ごすピーターおじいさん。
子供らにねだられて話す今日のお話は…
ほーっとタメイキがでてしまう。この温かく満ち足りた雰囲気、お話が語られるにふさわしい情景。
若き日のアーサー・ランサムがロシアに惚れて、ロシアに住み、ロシアで集めた、ロシアの昔話集が、今、大きなピーターおじいさんの口を借りて語られる…
華麗な宮殿に住むロシアの父ツァーリ。
森のなか、雌鳥の足をもった家に住んでいるのは、おそろしいバーバ・ヤーガ。鉄の歯でなんでもかみくだく。
音楽を奏でるダルシマー。
しゅうしゅうと湯気をあげるサモワール。
うなりをあげてまいあがる風と雪。真冬に頬で流れ落ちずに凍る涙。
ああ、これはロシアのお話なんだなあ、としみじみ感じている。
「シナの五人兄弟」や、グリムの「腕利き4人兄弟」などと系列が似ている『空とぶ船と世界一のお人よし』、さまざまな特殊能力を持った「兄弟」たちに助けられてお姫さまを射止める朗らかな話。王さまの出す難題を、さあ今度はだれがどんな力を使ってどんな方法で片付けるかがお楽しみ。
『ゆきむすめ』は、『鶴女房(鶴の恩返し)』に似ている。綺麗でかわいくて気まぐれで、はかないゆきむすめ。おじいさんとおばあさんの欲(魔が差したか)のおかげで一番大切なものを失ってしまった。とりかえしのつかない後悔がむなしい。
『火の鳥と魔法の馬とワシリーサ王女の話』が一番好き。物言う美しく聡明な魔法の馬、輝く火の鳥、世界の果ての「ない島」の美しい王女。王女の小船は銀の船、金のかいでこぐ。なんとロマンチックなお話だろう。
『しゃれこうべの中に住んでいるのは』は、内田りさ子再話の「ウクライナ民話・てぶくろ」によく似ている。ねずみ、かえる、うさぎ、きつね…と出てくる動物も同じだけれど、彼らが住むのは温かな手袋ではなく、野にころがるしゃれこうべ!最後にやってきたくまに上から粉々に砕かれるまで。同じロシアの類話でありながら、「てぶくろ」と「しゃれこうべ」のイメージのちがい、後味のちがいにおどろいた。