『なまくら』  吉橋通夫

江戸末期から明治初期という時代設定で、13歳くらいの子供から大人になろうとする少年を主人公とした7つの短篇。
どの物語もちょっと似ている。
幕末から維新の混乱の中で、貧しく苦しい状況に追い込まれた少年たち。何とかしてこの状況から抜け出したいと思っている、でもどうしたらいいのかわからない。ひとつことを遣り通すことが出来なかったり、誘惑に負けて流されそうになる自分を自己弁護したり・・・
どの物語でも、そんな彼らに必ず手を差し伸べる大人がいる。それはべたっとした優しさではない、ときに突き放し、叱り飛ばし・・・
どの物語も似ているし、読後感も似ている。さわやかで温かい。
7編の物語が、くり返しくり返し、少年達にエールを送り続けているような感じだ。

 すうっと読めて、おもしろい、と思わせてくれるのは、この時代背景、それから、京言葉の、共通語とは違った響きのせいもあるかな。
車引き、灰買い、砥石山の石運び、などなど・・・今ではその仕事の内容さえわからないような職業がたくさん出てきて、これもまたよかった。そして、かつての日本では、こんな子供たちが大人に混じって働いていた、これは事実だったんだろう。

短篇なので、少年が前をきりりと向いたところで終わる、そこがいいんだけれど、彼らの今後のことが知りたい。決して単純なハッピーエンドが待ち受けているわけではない彼らのその後の人生を知りたい、と思いました。