『みんな一緒にバギーに乗って』  川端裕人

区立保育園の新人保育士田村竜太を中心とした連作短篇で、保育士さんたち、子供達、親たち、様々な家庭が描かれていく。
たいした事件がおこるわけではない。保育園のなかの小さな物語だから。
だけど、なんて感動的で、なんとさわやかな世界なんだろう。
保育園での様々な事件は、小さな子供達にとっては一生をゆるがす大事件の前夜みたいなものだし、この小さな子供達を守って、保育士さんはこんなに一生懸命だ。

男性の保育士が認められたのは1977年だそうだ。男性にとって歴史の浅い職場。彼らは、現場でも難しい立場だったり、保護者からも奇異の目で見られたり・・・
男性の多い職場で自分の立場を確実に築き上げてきた多くのパイオニア的な女性達を思ったりしながら、ああ、おんなじなんだなあ、がんばれ、と思わず応援したくなる。
男性保育士――それぞれタイプのちがう男三人いたのもよかった。男とか女とかじゃなくて、それぞれに個性的な、でも同じ目的を持った人たちの集まりなのだ、と素直に頷ける。

どきっとしたのは「コロチュ」。
1歳児の口からでた思いがけない言葉。この言葉から家庭の中のなにかを探りたくなる。虐待だろうか。・・・それが、ああ、こんな話だったなんて。思わずじわりとしてしまう。

また、元気先生の話。最初のプロローグ的なエピソード、すっかり忘れかけていたあの場面が、最後にこんなふうにリンクするなんて。
運動会「子どもオリンピック!」での子供達の輝きに胸が熱くなります。
そして静かに物語の中から去っていった元気先生の復活を心から望みます。

最後に新たな局面を迎えながら、竜太は自分のこれからの身のふりかたをはっきりと決められない。
だけど、新人の時代をすでにすぎ、決められないままに堂々と、今、目の前の子供達との時間を精一杯大切にしようとする、その姿に成長を感じた。
プロの保育士さんってすごいなあ!!

作者の子供への愛を凄く感じる。ふんわりと温かく、明るい印象だけれど、断固として「子供は大切な大切な存在なんだ」という力強いメッセージも感じられる。
様々な問題を投げかけて、決して安易な解決には至らないのだけれど、それもまたすがすがしい。