『幽霊を見た10の話 』 フィリパ・ピアス 

途中で読むのをやめることもさきに進むこともできなくなるようなドキドキの「影の檻」
森の木のにおいと木々の長い歴史の不思議さを一杯に吸い込んだような気がする「あててみて」
その詩情と優しさに胸が一杯になってしまう「水門で」
畑のそばにたたずむ老人に寄り添いたくなる「アーサー・クックさんのおかしな病気」
・・・・・・・
人の背中に忍び込むぞくりとした詰めたい手。かと思えばしみじみと美しい余韻や悲しみの残るもの、温かい気持ちでおわるもの。
不安、憧れ、思慕、恐怖、なにかの囚われ・・・
どの物語も不思議な超常現象の物語、なのだが、そういう現象を作り出すのが、人間の「思い」なのだ、ということが丹念に描かれているように思いました。
「幽霊話」ですけど、怪談ではありません。怖いというより、やはり人間の心の不思議さにはっとしたり、感動したりするのでした。

とくに老人の強い「思い」が「出来事」の核になっているものが多く、特にインパクトがあった。そして、そのことに気がつくのは、たいてい子供のぴんとした鋭い感受性であることも。
物語を動かしているのはいつも誰か、作中人物の強い心の動きで、それをぼんやりと眺めたりあるいは知らずに巻き込まれる子供がいる。
子供の心が物語の核になる「思い」になんらかの作用をして、不思議な化学変化(?)が生まれるような感じ。
短編集で、一つ一つの物語はとても短いのですが、深みがあり、物語一つ読むたびに、だれかの人生を旅したような充実感を感じました。