『ポプラの秋』   湯本香樹実

春の花一杯の季節に秋の本を読みました。

子供と老人を描くことがどうしてこの人はこんなに上手なんでしょう。
6~7歳の千秋の感じているとらえどころのない不安感や健気さ、真剣さは、とてもリアルでした。
老人、大家のおばあさんも、それから、ちょこっと出てきた千秋の祖母も、すごくいいです。あのしたたかさと読みの深さ豊かさには舌を巻く。うーん、、わたしも修行を積んで、こんな老婆になりたい。
だれからも好かれる人当たりのいい老人ではなく、6歳の女の子に、
  >あんたが大人になってもこの世にいるなんて,考えるだけでもぞっとするよ。
   だけどまあ,ひとつがんばってみるかね
なぁんてことを言っちゃうような憎らしい「く○ば○あ」に私はなりたい。

老人と子供。なんと可笑しくて、それから切ない触れあい。
数々のエピソードのおかしさに、くすくす笑わされながら、打たれた。二人の心の奥底の真摯な触れあいに。

子供と老人、そして、母親。彼らをめぐる人々。それぞれに細やかで、鋭くて、切実な思いを抱えて生きていることに当たっては、何度もはっとして、立ち止まった。

涙をこぼしてシンミリと感動して終わる物語かと思ったら、とんでもない。
湿り気なく、からっと。この爽やかな読後感。
これは、「死」というトンネルを潜り抜けて「生」に行き当たる爽やかさ、とでもいえばいいのか・・・
また、この主人公は、現在26歳で、小学1年生の秋を振り返っているわけなんですけど、
現在と過去の主人公が、ともに、重荷(というか煮詰まった危機)を背負っている、という点で、リンクしているように思います。だから、ラストのあの爽やかさには、過去と現代をともに解放されたような喜びを感じていました。

天国に手紙を届ける。何百通もの手紙。
だけど、おばあさんは、口には出さなかったもうひとつの手紙を遺された人にも届けたように思います。
 生きることをまっすぐに受け入れる(ユーモアの味付けあり)、という手紙。