『8つの物語(思い出の子どもたち)』 フィリパ・ピアス 

ごく当たり前の子供達の繊細な心を丁寧に掬い取るように描いた8つの短篇。
過度に飾り立てた文章ではない、すっきりと整理された、むしろかなり抑制された素っ気無い文章だと思いました。それだけに、さりげなく、なんでもなさそうに描き出された子供の行為や、そのまわりに起こったことから、子供の感じやすい心が、それこそありのままに伝わってくるのです。
作者の温かいまなざし。尊敬。子供に対しての。優等生ではない、普通の、誰の心にも覚えのある子供に対しての。
こういう感覚って、(嘗ての子供の日々を思い出して)すごく共感できるんだけど、でも忘れている。忘れて生活している。
これを書いたのが80歳の女性だということに改めて驚いてしまいます。何で書けてしまうんだろう。なんでおぼえていられるんだろう。10歳の、ホントウにささやかな、一瞬の、そして、本人さえ気がつかずにすぎてしまいそうな、微妙な心の揺れ。それがまた、なんだかなつかしく、優しい。すっかり忘れていた小さな優しい気もちが蘇る。
それこそ大きな冒険も、涙を流すほどの揺さぶりかけもないのに、じんわりと温かい気持ちになってしまう。

子供と、それから老人。児童書で、子どもと老人の関係を描く人は多いなあ、と改めて感じました。それがまた、たいてい好きなのばっかり。。ピアスさんも、そういえば、どの本にもすごく素敵な老人(特におばあさん)が出てきたなあ。この本にも。そして、この素敵なおばあさんたちは、子供を輝かすために、すごく大きなサポート役を引き受けてくれている。ときに主役を食っちゃったりしてね。

「夏の朝」
これが一番好きです。人との繫がり。誰かに手をさしのばす、その手を受け止める。これだけのことをこんなに印象的に書いてくれるなんて。「そしたら『楽しいな』って思ってね!」という最後の言葉がとてもいい。なんて素朴で温かな願い。すごくいい。

「まつぼっくり」「巣守りたまご」。ある「もの」がその人だけにしかわからない意味を持つ。そのものにしみこんだ大切な大切な意味。せつないけど、思い出を踏み越えて、一回り大きく成長する子どもの生きる力の素晴らしさ、さわやかさ。いいなあ。

たくさん出てきた老人達のなかでは、最後の「目をつぶって」に出てくるおばあちゃんが一番好きかも。夏の蒸し暑い日に、水疱瘡で寝ていなければならない少年へのこんな素敵なお見舞いってちょっと考えられない。そして、たぶん、こんなお見舞いを考えられる人って、そうそういないはず。

1976年から2000年にかけて書かれたこの短篇集。ピアスさんはほぼ80歳。ピアスさん自身が、子供の傍らにいる最高にすばらしい老人であるってことなんでしょうね。この本のなかのすてきなおばあちゃんたちは、ピアスさんと重なりました。