『わたしたちの帽子』  高楼方子

ノスタルジー漂う古いビル。入っているテナントはなんだか妖しげ、住んでいるのもちょっと神秘的な感じの人・・・
5階の廊下の突き当たりに掛けられた「手品師」の絵は「だーまされた」って言っているみたいだし、その絵の額についたボタンを押すと、絵の奥に秘密の階段があったりする。
4階と5階の間にある不思議な通路。ここは一体何階?――そうね、もちろん4階半。 まだまだきらきらした小道具や、なんとなく不思議な感じ、がいっぱい。
こんな不思議なビルで生活することになったとしたら・・・それだけで、もうわくわくしてしまいませんか。
この本の主人公サキちゃんと同じ今度小学5年生になるくらいの女の子だったら、きっと夢中になってしまうことでしょう。高楼方子さんが用意してくれたビルの中のさまざまなアイテムは、ワクワクする楽しさと、なんだかどこかで見たことがあるようななつかしさと、「わあわたし前からこんなのあればいいと思ってたような気がする」という憧れがいっぱいで、うーん、こんな舞台や小道具、よくもまあ用意してくださった、と感謝したくなるのでした。

そこへ持ってきて秘密めいた友だち。この友だちに繋がるのが不思議ないきさつで手に入ったちょっと風変わりなぼうし。
「秘密」を共有する同性の友だちって、どうでしょうね。
女の子にとって「ふたりだけの秘密」って、なんだか怪しくて、危なっかしくて、でも魅力的で、ちょっと儀式のようなものかもしれません。
幼い日の友情のなかで「ふたりだけの秘密」を知らずに大きくなった女の子っているのかな。それは独特な魅力を持った魔法の言葉(であると同時に、二人を縛りつけ底なしの泥沼へと落ち込ませる妖しく怖ろしい言葉)であったのでした。
サキちゃんと育ちゃんの場合、二人の素直さと、一ヶ月限定の魔法が、泥沼を免れさせてくれたような気がします。

サキちゃんの不思議な友だち育ちゃん。そして、ふたりで体験する不思議な冒険。
なんとなく「トムは真夜中の庭で」のような感じになるのかな、と期待したのですが、アニハカランヤ、ちゃんと謎は解けるのです。つまり、「種明かし」があったのでした。
でも、「種明かし」の後に、魔法はお仕舞い、とならないのです。このお話は。
種はあったけど、だからこそ余計に素敵じゃないの、と思えるのがいいです。
なにもかも共有するお友だちではなく(トイレまでつきあったり、とかじゃなくてね)、互いの生活に深入りしない、縛らない、ただ二人だけが共有できるなにやら輝かしいひとときを大切にする、この微妙な線引きがいいな。
種明かしがあっても魔法が消えないのは、ふたりのやさしさと、この不思議な舞台のなかでの、二人のはずむ楽しい心のせいです。楽しくてうれしい。わたしもここで二人と一緒にいたくなる。