たまご

たまご‐L’OEUF (ガブリエル・バンザンのえほん)

たまご‐L’OEUF (ガブリエル・バンザンのえほん)


ガブリエル・バンサンの「アンジュール」や、「くまのアーネストおじさん」のシリーズが好きです。
絵、そして、多く取った空間で語ろうとしたものは、さびしさ、そこからにじみ出るやさしさ、あたたかさ、などでした。
そして(うまくいえないのですが)必ず、読者を招き入れるような場を絵のなかに作ってくれているような気がしました。

今、はじめて、彼女の代表作のひとつでもある「たまご」という絵本を読んでみて、戸惑っています。
今まで知っているつもりでいたバンサンさんの世界からは全く印象の違う本でした。
原書は、作者名が「モニーク・マルタン」となっているそうです。バンサンの本名だそうで、本名を冠して発表した作品はこの「たまご」だけなのだ、ということです。


この暗さはなに。
海辺にぬーっと立つ巨大な卵は一体何。
たまご、といえば、誕生。
だけど、この禍々しい誕生はなに。祝福されない残酷さはなに。
あの巨大な鳥の目は何を問いかけているのか。
そして、このぞっとするラストシーンは、何を意味するのでしょう。


今江祥智さんのあとがきのなかで、「それは読者の判断というか、読みに委ねられている・・・」という一文がありますが、実際どのように読んだらいいのか。途方にくれつつも、衝撃的ともいえる数々の場面が目に焼きついているのです。
あの暗さは、憎しみなのか、怒りなのか、あきらめなのか、つきはなした絶望なのか・・・
ある意味、絵本の一場面一場面を小ざかしく解釈しようとするわたしのコセコセした根性を見破るかのようにがつんと一発くらわされたような気もします。(実は快感だったりして)
すごい力のある絵本です。一度見たら忘れられないような力強さです。


この絵本の感想を書くのはしばらくおあずけかな、と思っていたところ、
小学生の娘が、「あれ、バンサンの本、借りてきてくれたんだー」と手にとったのでした。
これは大人の絵本だろう、と思っていたのですが、毎日くり返しながめていた娘に、「この本、難しいね」と声をかけると、「わたしはこれ結構好きかも」との返事。
「このたまごは大きく描いてあるけど、小さいふつうの鳥の話なんだと思う。人間に森を破壊されて、仕方なく町に住めば害鳥って言われて殺されるし。でも殺されても殺されてもあきらめずにたまごを産み続けるのがすごい・・・」
ほーっ、この子はそういうふうに読むのかー・・・あの暗い画面を。
子供のストレートで明るい解釈に、まじまじと本に見入ってしまいました。