星空キャンプ


もう七年も前。長野の五光牧場で五泊六日のキャンプをしたのが、わたしたち家族の一番長いキャンプでした。
牧草地のキャンプサイトは大変広くて、お隣さんの声がよく聞こえないほど離れていました。
水場以外、照明がほどんとないので、夜は、ぐんと伸ばした自分の手の先も見えないほどの闇。
そのかわり、満天の星は美しく、「降る様な」という言葉がぴったりでした。
毎晩ひゅーんひゅーんと流星が流れるのを眺めていました。
六日間。こんなに長くキャンプできたのは夫が会社を辞めたからでした。
流れ星を眺めながら、わたしたち夫婦はさまざまなことを考えていました。
とりわけ先行きの見えない明日が不安でした。
それでも、将来の不安を明日に先延ばしして、五日間、天からもらった休暇を楽しんだのでした。
しんと静まり返った夜のなか、遊びつかれた子供らも静まり、
親子四人、夜空を眺めていると、この世のなかの掛け替えのないひとかたまり、
そして、見えないどこかにいるお隣さん、ひっそりと安らぐバッタやチョウチョや鳥達も、
この夜空に抱かれた大切な仲間のように感じるのです。
そして、我が家のファミリーキャンプは、これが最後になりました。



以前、どこかで、村上康成さんが米国モンタナ州で親子三人、キャンプをしたときのことを書いたものだと、聞いた(読んだ)ことがあります。
食事の準備をする村上ファミリーを、野生の鹿がすぐそばでじーっと眺めていたそうです。
「星空キャンプ」という絵本はそのときの体験から生まれた本だそうです。


この絵本の不思議な静けさと美しさ、地球の上に生きるしみじみとした喜びは、
実際手にとらなければ伝わってはこないような気がします。
ある家族の一週間。
ダイナミックな自然のなかで、ささやかな風の音を感じ、鳥や獣と等しい存在感を持つ。
彼らは自然に対して決して奢ることなく、同胞として、そこに立つ。
このすがすがしさは、作者のポリシーなのか、襟を正したくなるのです。
そして、なんとも美しい無駄のない絵。心が透明になっていく、限りなくやさしくなっていくような気がするのです。

 >地面のごつごつがすこしいたいけど、なんだか地球のベッドはきもちがいい。


 >うれしいね、ミナ。
  あのね、シカやクマや、鳥や魚、いろんなものが、同じ空気をすって、いまいっしょだってこと。