ベンのトランペット

ベンのトランペット (あかねせかいの本 7)

ベンのトランペット (あかねせかいの本 7)


ベンの憧れはジグザグ・ジャズ・クラブのトランペッター。学校の帰りに、いつも練習を覗いてみている。
そして、ベンもトランペットを吹くのです。
貧しい家庭の少年ベンはもちろんトランペットなんて持っていません。
ベンは見えないトランペットを吹く。本物のトランペットはないけれど、ベンにはちゃんと見えている。彼の心のなかではちゃんと自分の音が聞こえているのです。

黒と白だけで描かれた絵です。この絵のなかからベンのトランペットへの思いがずんずん伝わってくるのです。すごいです。どんな魔法なのでしょう。
まぶかにかぶったハンチングのなかに、階段にすわりこんだそのからだつきに、見えないトランペットを体全体で演奏するその姿に。

表紙の画像がないのがとても残念です。
ベージュ掛かったグレーの地。銀色で大きく「ベンのトランペット」と左下から右上に向かって斜めに書かれています。
そして、右下に黒い影のような男の子が見えないトランペットを全身で吹いている絵です。その男の子によりそうように、銀色でプロのトランペッターの影が描かれています。一身にトランペットを吹いているのです。
この銀色の影は、ベンの心に映る自分の姿のようです。

何よりも、「ジャズ」(実はわたし、ジャズってちゃんと聴いたことないのです)が、知らないはずのジャズが、画面のなかからあふれるように湧き出してくるんです。
ねえ、
音楽を「絵」にすることができるなんて信じられますか。
音楽を「形」にすることができるなんて信じられますか。
音楽を「線」や「面」にすることが出来るなんて信じられますか。
ここには「ジャズ」が描かれているんです。ちゃんと聞こえてくるんです。
まっすぐに、つきささるように聞こえてくるんです。・・・・この音楽はかっこいい。せつない。かったるくて、美しくて、激しい。
この絵の中に耳をすまして浸ってしまう。

絵も素晴らしいのですが、そこに添えられた短い言葉がいいです。
自分だけにしかみえない聞こえないトランペットを吹いているベンのそばを通りながら、クラブのトランペッターがひとこと。
  >いかすらっぱじゃねえか。
「かっこいい大人」って彼のような人だ、と心から思います。

最後がいいんです。ドキドキします。
高らかに本物のトランペットが鳴り始めます。最高!