銅版画家の仕事場

銅版画家の仕事場

銅版画家の仕事場


銅版画家のおじいさんの仕事を少年時代のぼくは手伝いました。
ぼくの仕事は、おじいさんの作る版画のひとつひとつに手で、彩色することでした。
版画に色をつけているうちに、吸い込まれるように、絵のなかをさまよっている…

細密な銅版画で描かれた絵本です。
「ぼく」が案内人になって、銅版画ができるまでの過程を丁寧にたどります。
そして、銅版画の世界をさまようぼくの世界の楽しく美しいこと。美術館をゆったりと散策しているような満ち足りた気持ちになります。
こざっぱりと整頓されたおじいさんの仕事場の気持ちよさ、一仕事終えたふたりが、仕事場のすみで、くつろぐ様子はあたたかくて、「ぼく」にとって、おじいさんがどんな存在なのか、よくわかります。
そして、このぼくは、作者自身なのですね、きっと。
この人の本のなかに潜む温かなユーモアは、この仕事場からうまれてきたのですね、おじいさんと一緒の仕事場から。…そう思ったらなんだかうれしくなってしまった。

さて、この本には、もうひとつの魅力があります。
表紙から、ひとつひとつのページの絵をじっくり見ていると、仕事場の壁に飾られた絵のなかに、文では語られない新しい物語が見えてくるのです。
そして、少年が、彩色しながら、絵のなかを夢見るようにさまよう美しい場面を経たとき、
一気にすべての版画に色が現れます。
夢が本当になったような素敵な充足感が生まれます。

作者のこだわりがとてもうれしいです。くり返し読むほどに魅力の増してくる絵本だと思います。
ああ、どうしようかな。また買いたい絵本が増えてしまった…