『カラフル  森絵都

リセットとリプレイ。少し前に読んだ「野ブタ。をプロデュース」を思い出した。そして、読後消化不良だった「野ブタ。」がこの「カラフル」読後、「あ、そういうことだったのか」と理解できたような気がした。半月もたって遅いんだけど。

「カラフル」
死んだはずのぼくが「おめでとうございます」と抽選に当たって、現世での再挑戦のチャンスを与えられる。まさにリセット&リプレイ。
いかにも軽そうな始まりなのだけれど、そして、オチはかなり早くからわかってしまうのだけれど、甘くみたら損しちゃう、中身はぎゅうっと濃い本でした。
ラブホテルから母親がフラメンコの先生と一緒に出てきたり、初恋の女の子が中年のおじさんといっしょに入っていったり。
それでも間違いなく児童書でいいんだよね、と思う。

小林真(現世での「ぼく」のステイ先)、そして彼をめぐる14歳たちの研ぎ澄まされた、切ない感受性をひたすらピュアに描写していく。
オチは知れている、なんてことは二の次。一旦は黒と白にしか見えなかった小林真をとりまく人間模様がこんなにもカラフルなものだったんだ、と覚醒していく過程が鮮やかで、何度も感動してしまった。
人が成長する手前に、成長できるはずの自分なのだ、と気がつく、始まりの物語。と言ってもいいかな。人生捨てたもんじゃないねえ。

さて、間違いなく児童書、とさきほど書いたけれど、一方で、これ児童書かい?とも思いました。
まず不倫母。この人のエネルギーには圧倒されてしまう。神妙な顔はしていますが、どん底まで沈み込むことはない。このパワーが世の主婦へはなむけに思えてくる。(やっていることがいいって言っているわけじゃない) このおかあさん、自分でも気がついていないのだろうけど、相当にしたたかです。だいじょうぶ、世の中どうなっても、茫洋とした顔しながらも、しっかり生き残れます。元気でますね。
同じくエンコウ少女ひろか。それから唱子。ふたりともそれぞれに、それぞれのやり方で自分をみつめようとしている。もやもややいらいら、現実と理想のギャップのなかで、逃げずに対峙しようとしている。その方法が正しいとか間違っているとかいう、それ以前に、圧倒されるじゃない。

こうやって三人の女たちにスポットをあててみると、真、兄の満、そして父親の、おだやかなやさしさが、ものすごーく小さくみえてしまった。
そして、改めて着ぐるみ着てリプレイを繰り返す「野ブタ。」の桐谷修二のパワーにかぶってきた。
彼らはたくみにリセットするけど、リプレイするためのパワーをちゃんと蓄えている。このしたたかな群像が妙にまぶしく感じられた。主人公以上に。