『バターシー城の悪者たち 』  ジョーン・エイケン 

19世紀のおわりごろ、善良な王ジェームズ三世治世下のイギリス。
当時、ドーバーからカレーへの海底トンネルが開通したばかりで、このトンネルを通って数知れない狼たちが、イギリスへ移ってきていた・・・
こんなありそうで実はうそっぱちの歴史をイギリス史にすべりこませたエイケンの「ウィロビ-チェースのオオカミ」に続く、シリーズ2作目。

前作「ウィロビーチェース」で、二人の少女ボニーとシルビアに手を貸したサイモン少年が今回の主人公。
前作でサイモンの絵の才能を見出してくれたフィールド先生から手紙を受け取り、フィールド先生を頼ってロンドンにやってきた。
下宿先のトワイトさんの家に行って見ると「フィールドさんなんて人は知らない」と言われる。部屋はからっぽ。人が住んでいる気配はない。・・・だけど、サイモンはかすかなフィールド先生の痕跡を発見する。
フィールド先生は一体どうしたのでしょう。
トワイト家に住むようになったサイモンはそこから美術学校へ通い始めます。
ひょんなことから関わりをもったバターシー公爵家だけれど、公爵の側近から使用人までなんだか胡散臭い。
何か自分がとんでもない事件の渦中にまぎれこんでしまったような気がするサイモン・・・
王さままで巻き込んでの陰謀が張り巡らされていたのでした。

古典的な冒険物語です。一冊の本のなかに、次から次へのどきどきわくわくがこれでもかってくらいに詰め込まれていて、かなり密度が濃いです。
主人公サイモンは勇気もあるし、我慢強くて寛容、どこか小公子然とした古典的ヒーローです。これに対して、断然魅力的なのが、胡散臭いトワイト家の末娘ダイドーです。 とにかくお行儀が悪い、言葉は乱暴、約束は守らないし、意地が悪くてずるい。
だけど、ほんとは素直な寂しがり屋。勇気もある。
物語後半の彼女の活躍は目ざましいものがあります。
前半でのダイドーを考えれば、この豹変振りは何?って感じですが、彼女はきっと海があっているんですね。まさに水を得た魚、という感があります。彼女の活躍に圧倒されました。

最後に明らかになることは、途中で、かなり早くわかってしまうのですが、一巻「ウィロビーチェース」でのイメージが根強く残っているものですから、わりとあとのほうまで、「そんなことありえないよね」と思っていましたが、ありえたのでした♪
気球の旅には驚きましたが、これでもかってくらいにお楽しみをサービスしてくれたなあ、という感じ。
正直、ただでさえ速い物語の展開が、最後に向かうに従って加速し始め、「ついに気球か」「ついに王さまか」という感じで、こちらは逆にブレーキをかけたいくらいでした。でも、もう止まらない。ラストにむかって一気に物語は突き進みました。
大団円ですから良し、です。

19世紀のロンドンの雰囲気――庶民のおおらかな暮らしや、人情、貴族たちの優雅な日常など、伝わってきて、良い感じ。

最後に消息不明になってしまったダイドーですが、このあとの巻で活躍するとのこと。 いよいよ彼女の旅と冒険が始まるようです。