『東京を騒がせた動物たち』  林丈二

国会図書館に眠る明治の新聞約20紙を二十年間に渡って読み続けてきた著者が、動物にまつわる記事からめぼしいものをかいつまんで抜粋し、解説付きで紹介した本です。

東京に、狸やキツネが出没して悪さをした話。
キツネは出没場所によって、その処遇はいろいろ。かたや「わるぎつね、ずるぎつね」と追い回され打ちのめされ殺されたりするかと思えば、某神社境内に現れたところ「お稲荷さま」と奉られて、毎日油揚げを供えられる大名暮らしと相成ったものもあり。

日本では絶滅した(といわれる)カワウソが、当時東京では、ときどき出てきていたが、見つかれば即退治の害獣だったそうだ。

東京の街中に、迷いロバが現れたり、電信柱に馬を繋いだかどで、持ち主は75銭の罰金をはらわなければならなかったり、乳離れできない馬が女性の乳房にかみついたり、・・・のどかでおかしな事件が巷間をにぎわしていたらしい。

さらに、な、なんと。当時の狐狸はひとを化かしていた!
いくつも摩訶不思議な「化かし」にあった人の記事が載っていたりする明治の新聞。
たとえば、ある人は狸にたぶらかされて、大川に歩み入ろうとしたところを巡査に保護され、我に返る。記事のおしまいには「人間は万物の霊長なのだから、もっと勉強して油断をするな」との解説つきだそうである。

雷獣なんて摩訶不思議な生き物もいたらしい。雷が落ちたところに出現する摩訶不思議な獣で、雷神様のお使いらしい。
目撃証言が記事になたりしている。

そのほか、亀に大蛇に、鷲に鷹。サンショウウオやらムジナやら。

これらの楽しい(?)不思議な記事の後ろに、明治の人たちのおおらかな暮らしが垣間見える。
動物のうしろには必ず人がいて、化かされたり、悪さされたり、あるいは神さまのお使いと感謝したり・・・動物も、身の回りの環境も一手に抱きこんで(あるいは抱き込まれて)暮らしていたのではないか。と思えました。