『ハリスおばさんニューヨークへ行く』  ポール・ギャリコ 

ハリスおばさんシリーズ第二作。
ロンドンで通いのお手伝いさんをしているハリスおばさんのお得意先シュライバー夫妻が、シュライバー氏の栄転でニューヨークに戻ることになりました。
「落ち着くまで、信頼できるハリスおばさんに同行してほしい」というシュライバーさんに、ハリスおばさんは親友のバターフィールドおばさんといっしょなら、という条件で同意します。
でも、ハリスおばさんには別の考えがありました。
隣家にあずけられて毎日殴られいじめられているヘンリー少年の父親(アメリカ人で行方不明)を探し出したい。ついては、ヘンリーをこっそり連れ出して、アメリカに密入国させてしまおう、という大それた計画でした。
真っ青になるバターフィールドおばさんを差し置いて、楽天家のハリスおばさんは元気元気。いつのまにか、頭の中では、父子再会の感動場面ができあがっているのでした。
だけど、ほんとにそんなに計画通りうまくいくかというと・・・

まず子供一人アメリカに密入国させようなんてそんな簡単にできるわけない。さらに広大なアメリカでは、ある一時期イギリスにいた同じ年頃の同姓同名の男なんて何千人といるのでした。
ざるのようなハリスおばさんの計画が、暗礁にのりあげそうになるたびに、必ず救いの手が現れて、正義感と実行力(?)のおばさんの計画に協力してしまうのがおもしろいのです。みんなそろって同じことを言う。「わたしたちが○○をやるとなると・・・」と。
「わたしたち」――言っている人は気がつかないで、いつのまにかハリスおばさんと同じ立場に立ってしまっているのがおもしろいです。
相手にこんなふうに言わせるのもハリスおばさんの魅力ですよね。
でも、読んでいるこちらはハラハラしました。これがうまくいかないとなると、ヘンリーの頼みの綱のハリスおばさんたちは監獄おくりで、ヘンリー自身は単身(かばってくれる人もなく)残酷なもとの家族のもとにもどらなければならない。
さらに、最後にはヘンリーの父親がみつかったものの、いっそみつからないほうがよかった!という結果が待ち構えていたりして・・・まあ、はらはらさせられました。
この事件はおばさんには少しは良い薬になったかも。・・・なったかな。うーん、それは三作目を読まないとわかりません。

イギリス人とアメリカ人の比較も興味深いものがありました。
そして、ギャリコは、ほんとに自国に愛情と誇りを持っているんだなーと思いました。

最後に訳者亀山龍樹氏のあとがきがよかったです。
亀山氏がロンドンで実際に出会ったたくさんの「ハリスおばさん」たちのエピソードはほっこりと胸にしみるものがありました。