『復刊ドットコム奮戦記 』 左田野渉

良い本なのに、なぜ絶版になってしまうのだろう。いつのまにか、あの本もこの本も絶版になっていたのか!! ああ、そうと知っていたら早くに手に入れておいたものを・・・
という思いは、誰もがしたことがあるのではないだろうか。わたしもそうです。そして、だからこそ復刊ドットコムというサイトの存在はどんなにありがたいものであったことか。

この本の著者はブッキングという出版社の専務取締役です。

お世話になっている復刊ドットコム。だけど、あきれるほどに、このサイトのことを知らなかったことを思い知りました。
まず、復刊ドットコムというサイトがブッキングという会社によって運営されていること。
その資金はサイトでの復刊本の売り上げに頼っていること。 ひとくちに「絶版」といっても、その背景には、本当に一言ではいえない事情があること。
だから復刊を望む声が高く、復刊投票の数量が相当数になっても、復刊できない本もまた多いということ。

復刊票が集まれば、もともとの出版社に、復刊の交渉をすることになりますが、それがうまくいかないとき、初めてブッキングからの出版の可能性を探ることになります。
これが大変な仕事。もとの出版社から復刊できない、ということは、その本は既に「わけあり」ってことです。復刊できない、ふかーく根強い理由があるのでした。うーん。
その「事情」に踏み入って、あちらからこちらから、アプローチして、調べて、復刊にもっていく。(その過程で、別会社に「あぶらげをさらわれる」ような悔しい思いをしながらも)めでたく復刊にこぎつけることができるもの。
交渉を断念し、サイト上で、やむなく「膠着」「断念」という表示をしなければならないこと。

出来る限りの情報を開示しながら、読者と出版社が互いに支えあって「仕事」をなしとげようとする、これは独特の経営のありかた。

  >復刊ドットコムでは、
   広告の出稿申し出に対してもお断りしています。
   あくまで復刊運動という社会的な意義が、
   サイトの高い意識を保証すると考えているからです。(p71)
  >(永江一石氏講演の折に質問して)
    「復刊を仕事としているブッキングですが、
    つくる部数が少なくて一冊の本の定価が高くなって
    しまうことをどう思われますか」
   永江氏は、僕の目をまっすぐに見つめておっしゃいました。
   「高い価格でも買ってくださるお客さんを探すべき」と。(p73)

改めて、今まで読んできたさまざまな本の出版社名「ブッキング」を思います。この一冊の本のなかに込められた発行者の思い。苦労。そして、サイトで応援してきた支持者と発行者の二人三脚の情熱に、感動します。そして感謝です。

少数であっても、もう決して社会に出ることがないかもしれない本たちが蘇るのはうれしいことです。

ブッキングから出ている本で、ぜひ読んでみたいと思ったのは、
「ビビを見た!」 大海赫
「光車よまわれ」 天沢退二郎
「ガラス玉演戯」 ヘルマン・へッセ
「ダルタニヤン物語」全巻 アレクサンドル・デュマ

それぞれに、発行者の強いオーラを感じる本です。
とりあえず図書館で借ります。もし買うと決めたら、復刊ドットコムから買おうと思います。ささやかな応援ができたらいいな、と。

最後に、この本「復刊ドットココム奮戦記」は、ブッキングからの出版じゃないんです。
ブッキングはあくまでも復刊活動を、という誠実な姿勢をここにも強く感じたのでした。