『シーラスと四頭立ての馬車』 セシル・ボトカー 

シーラス・シリーズ 第三巻。 
    >「お前がが何をしたらいいのかいけないのか、
    それを言うのはぼくじゃないよ。
    おとうさんにもぼくにも横目をつかわないで、
    おまえが自分で決めるんだ。
    そして自分で責任をもつこと」

これはシーラスがヤペトスに言った言葉。そして、今までこのとおりに生きてきたシーラスだった。
そのシーラスにとって、大きな転機が訪れたみたい。

きっかけは、豪商アレクサンドル・ブランクとその家族を乗せて暴走する4等立ての馬車を、シーラスが御し、家族の命を救ったこと。
ブランクの屋敷に留まり、彼の息子ヤペトスと知り合い、自由に生きてきた自分に足りないものがあることに気がつきます。
まず、それは文字を読みたい、と痛切に思う事件に出会ったことで。
また、街のさまざまな暮らしを見ながら、自分の暮らし方に修正を加える時期が来たことに気がつき始めたようです。
一方、ヤペトスも、勉強し、商売を学び、洗練されているけれど、何一つ自分では決められない自分の弱さに気がついてきます。

うーん、おもしろいです!
巻を追うごとにますますシーラスの魅力に嵌っていきます。

今回の本、表紙の絵をみて、「あれっ!・・・これってウマガラスじゃない!? まあまあ、性懲りもなくまた出てくるのか。そうこなくっちゃ♪」と、わくわくしてしまった。

今回はビン・ゴーヂックが活躍する機会はなかったのですが(残念。彼、好きです)・・・シーラスは、新たにおもしろい連中に出会います。
それが、お屋敷の秘密いっぱいの下男や、家政婦、馬丁(もとウマガラスの手下)、 それから、下町の子供達。ことにメリッサ。

メリッサ。
シーラスが、(盗まれた馬の行方をさがすため)自分の境遇を隠して、街の子供達に混じって善後策を話し合う場面。
メリッサは、
シーラスの正体を見破り、みんなの前でぎりぎりまで話しながらも、決して最後まで明かさない。
薄氷を踏むように、互いに直接言葉を交わすことなく通じ合っていくシーラスとメリッサの不思議な繋がりあい。ぞくぞくしました。
ここが一番好きなところかも。
うーん、面白い子。そして賢くて魅力的です。
今後、シーラスとどう関わっていくのか楽しみです。

アレクサンドル・ブランク、すてきなおとうさんでした。あれだけ成功して大金持ちのだんなさんが、若造シーラスに耳を傾けるって、凄いことだと思う。
息子ヤペトスとシーラスが影響しあい、高めあっていくのがいい感じ。

ウマガラス。
いいキャラクターです。今回も悪人面さげて登場したものの、どうも道化師になってしまうような・・・
ほとんど好敵手ですね。
シーラス自身も言っていますが、どこかシーラスと似たところがあるのかもしれない。根無し草で・・・
自分に似ているから、どこか許してしまっている?

最後に四人で馬を取り返しにいくところ、おもしろかった。あの癖(?)のある黄金の四人!
シーラスもずいぶん変わってきました。
一巻では、自分のことしか考えなかった、それが、相手のことを考えている。馬泥棒の貧しい暮らしをわかろうとしている。

やりたいことだけをやり、行きたいところに行って、好きなように生きてきたシーラスが、「学ぶ」ことに目覚めた。次はどんなことが待っているのか楽しみです。

  >字を読んで意味がつかめると、そのたびに大きな満足感を味わった。
   それはまるで、はじめての土地に馬を乗り入れるような感じ、
   今まで知らなかった風変わりな土地を発見するような感じだった。