『シーラスと黒い馬』セシル・ボトカー

シーラス・シリーズ 第一巻。

まず、文体が好きです。一文一文が短く切ってあって、テンポが小気味いいです。さばさばと気持ちよく読めてしまいます。
主人公のシーラス少年ですが、この少年がものすごくいろいろな才能を持っています。 もともと、曲芸師一座で、走る馬の上で曲芸するのが得意だった子です。身のこなしが軽くて、すばしこい。奇妙な笛を吹きます。人や動物をぞっとさせることも和ませることも、この笛一本でやってのけます。
しかし、なかなかの食わせ者です。まあ~、世渡りの上手なこと。あまり敵にまわしたくないタイプです。
全然「道徳的」ではありません。

この男の子がなんでこんなに魅力的なのか・・・と言えば、
この子の自由さ奔放さです。
実際、守らなければならないたくさんのものを抱えているわたしたち。・・・決して生活に不満があるわけじゃないけど、心の奥には「自由」への憧れがある。
自分にできないことをぽんぽんとやってくれるシーラスは、たぶんある意味、ヒーローです。
たくさんのずるくて残酷な大人たちは、わたしたちのまわりのあれこれの「事情」の化身です。こういうものがばっさばっさと片付いていくのは気持ちがいい。

狡猾な馬商人バートリンを出し抜いて、賭けに勝って、見事な黒馬を手に入れるシーラス。
どう見ても「正々堂々」とはいえないなあ、と思うのですが、シーラスにはシーラスの折り目節目があり、シーラスなりの正義の規範に従っているようです。
馬を盗まれたシーラスが、ビン・ゴーヂックの手を借りて取り戻すところは痛快。このふたりのチームプレイに拍手喝采です。
カワウソ猟師、おもしろい人だ。ろくでもない大人たちのなかで、唯一公平な人のような気がする。だけど不思議な雰囲気がいっぱいで、彼はこれからまだ出てくるのかな。あれだけてひっこむのは惜しいキャラクターです。凄く魅力的。
そして、盲目のマリア。彼女もまたでてきそう。この子のことももっとよく知りたいです。

トム・ソーヤやハックルベリィ・フィンを思い出します。
シーラスは仲間を得て、さらに遠くへ旅立つ様子。さあ、幕が開いた、という感じ。二巻以降が楽しみです。