『虫の音楽家』  小泉八雲 池田雅之編訳

鳴く虫や蛙の話、当時の日本の風俗や信仰、伝承文学などを、(たぶん)欧米向けに紹介しようとしたエッセイ集。
しかし、ただの紹介本ではなくて、その叙情に、ほーっとなってしまいました。
ふだん見過ごしているような些細な事柄の中から日本の美しさを掬い取る繊細な文章に、忘れていた日本の風土の良さを思いました。

コオロギや鈴虫の鳴き声を愛するのは日本人独特の文化らしい、
なのに、蝶は、何故か妖しくて怖い・・・
また、蛙の声を愛するのも日本独特。例えば、俳句のなかで、ぬるぬる、ぶよぶよした感触を歌うことはまずない。
これには、「日本の俳人たちは、五感で感じる事柄のなかの、劣った性質のものについてはたいがい無視する」しかし「西洋人が『美』と呼んでいる優れた性質のものについては、非常に敏感に反応している」との解釈をしている。

精霊流しのぼんやりした灯が遠く揺れながら川をくだって行く風景。 海を行く船にとりすがる化け物たち・・・
人の良い猟師たちやら、外国人を露骨に珍しがる物見高い人々・・・ この人がこの本のなかでとりあげるものは、とても微妙で、儚いものばかりだ。あちらこちらで集めた日本の伝承物語なども含めて。寂しい美しさ。寂しくて物悲しい・・・
小泉八雲が愛した日本が、どういうものだったのか、ここからうかがい知ることが出来るような気がします。

ところで、「もしも私が聖者になれたとしても、野にわび住まいしないように用心するだろう。日本の化けものを見たことがあるが、とても好きになれないからである」という一文には「おいおい」と思わず言いたくなってしまう。あなたのおかげで、少なくとも二割増くらいで、野のわび住まいは、さらにこわくなったんじゃないかと思うんですけど。

今夜も虫たちは鳴いている。なんだろう。私は、声で虫の種類を聞き分けることができません。全部まとめてコオロギと呼んでいますけど、何種類くらいの音楽家が我が家のまわりには住んでいるのだろう。