『魔法のうわぎ』  ウォルター・デ・ラ・メア 

このうわぎに本当に不思議な力があったのでしょうか。
あったとしたら、隠された自分を表に引き出すための勇気と自信を与える魔法だろうと思います。
ささやかな魔法ですが、空を飛んだり、姿を変えたりすることよりも、ずっとすごい魔法なんじゃないかと思います。

うわぎの魔法を信じて、悔いのない人生を送った老人が、若い日の自信も勇気もなかったころ(うわぎもなかったころの)自分と同類の少年に、うわぎを託す。

 最後のランボルト提督の姿に義父の姿が重なります。
若いものに人生をバトンタッチして、一線から身を引く。それは、長年の重荷をおろす、ほっとする瞬間であると同時に、ひとことで「寂しい」という以上の感慨があるのでしょう。

  >なぜ提督はふいにがっくりと気落ちしてしまったのでしょう?
   それに、つかれてもいました。
   ひどくのどがかわいてもいました。
   提督は、あのうわぎがなくてさびしいような気持ちだったのです。

前途が洋々と広がる若者とこの老人の対比。
わたしたちも、見えないうわぎを時にまとって、この人生を歩いているのではないでしょうか。
いつか、自分の後継者にそれを渡し終わるときまで。