『ミケルの庭 (「りかさん」併録作品)』 梨木香歩

「りかさん」併録、50ページほどの短篇。「からくりからくさ」のその後。

「からくりからくさ」で自分の気持ちに折り合いをつけたかにみえた紀久だった。
マーガレットの娘ミケルを通して、母性にめざめ、深い愛情をそそぐとともに、自分の中にひそむどうしようもない闇にも同時に気付く・・・ 光と闇。相反するものを身内に抱き込んで母性とする女・・・
ここでもまた、「からくりからくさ」のテーマが繰り返される。

紀久の感じている「かわいい」という言葉についての考察(?)が印象に残っています。
「かわいい」と簡単に言ってしまえば、それだけでなんとなくおしまいになってしまうけれど、実は、その言葉のなかには膨大な意味があるはず(闇の意味まで含めて)。

 「かわいい」とか「癒し」とか、それから他の言葉も、よく考えずに使ったら、言葉だけが宙に浮いてしまって、なんの意味も持たないものになってしまうのではないだろうか。
ときには、からっぽの言葉にほっとすることもあるんだけど、
時々は自分の言葉をちょっとふりかえってみたいものだ。(と言いながら、すぐ忘れるんだけど)

物語の最初と最後は、物心つき始めたミケルの言葉で語られる。
混沌としたなかから世界にむかって一歩を踏み出していこうとする。くミケルもまた、意識しないで唐草の蔓をたどろうとしている。彼女もまた、連続模様に連なっていくんだな。)

しかし、ミケルの立場、複雑きわまりない。母が四人も?いる。 ちょっとつらいだろう。


 実は、「からくりからくさ」を読んでいるときに、なんとなくほのかな違和感をちらりと感じて、この世界好きなんだけど、何かがひっかかって、すっきりしない感じがありました。
その違和感が、この物語では、より大きくなったような気がします。

「からくりからくさ」のなかでも「結界」という言葉が使われていますが、確かにこの家は、周囲から隔絶した感じがするのです。いい意味だけではなく、悪い意味でも。近所や、道行く人の気配がまるっきり感じられないのです。
そして、ここに住む彼女達も、どこか現実離れしている。
この四人の関係は素敵だ。そして、互いに、とても居心地がいいのだろうと思います。だけど、すごく閉鎖的。身内意識が強すぎるのかな。 少し寂しい感じがしました。

あれだけ相反するものをひとつに抱き込もうとしてきた物語なのに、こんなところにひずみが出ている…そんな気がします。
梨木さんの本は好き、「からくりからくさ」は本当によかった。だから、同時にちらりと混入してきたこんな気持ちも書いておきたい、と思いました。