まず、この雰囲気。ストーリーもテーマも人物も、置いといて、この雰囲気が好きです。すぐに消えてしまうような一過性の輝きが、ここには散りばめられていました。
>その夜、ぼくは、ムルチが川の源にたどり着き、そこから飛ぶ夢を見たよ。
(p35 「ムルチと川を遡る」より)
>…そして、(サンペイくんは)やおら教室全体を見渡し、
無言のままで魚体を高々と、
まるでバスプロの大会で優勝したトロフィのように掲げた。
・・・・・・
またも元気に体をくねらせたヌシから、飛沫が散った。
窓からの光が反射して
教室全体が一瞬、おひさまの金色にほーっと輝いた。
(p71 「サンペイ君、夢を語る」より)
>目の前を錆の出た金属板が通り過ぎ……
次の瞬間、星空だった。
びっくりするくらいの星空だった。
・・・・・・
・・・・・・
今この瞬間、ぼくたち自身も宇宙人なんだ。
博士(ひろし)は
ほとんど無限の中に放り出され漂う気分だった。
圧倒され、押しつぶされそうなのに、
体が飛び散って、自分が薄く広がっていくようでもあった。
(p129 「川に浮かぶ、星空に口笛を吹く」より)
「居場所がない」と感じること。地面に横たわるバットとに並ぶ自分の影の長さをみて、昨日まで住んでいた場所と引っ越してきた今日からの場所の、影の長さが違うことに気がつくところ、結構新鮮なショックでした。
私は転校したことないけれど、こういうことで違和感を感じるのか。生きている時間が違う。たとえ5分であっても。それはまるで異次元の世界に紛れ込んだような感じだろうなあ。
常に博士が感じる「居場所がない」感覚が、川をさかのぼることにつながり、やがて、自分の居場所を確認するに至ると、川をくだることにつながっていく。
これは、「川の名前」に始まった同じテーマの第2章なんじゃないか、と思いました。
この第2章の川は、山や町につながり、星空にまでつながって、・・・川端さんの川の旅は、遠く果てしなく流れていくような気がするのです。