『カッパのぬけがら』   なかがわちひろ

これは絵本? 絵物語

うちのちかくの川にも「危険」の看板が立っていました。イラストは川から顔を出す恐そうな河童。
うちの子どもは小さかったころ、この川には本当に河童が住んでいると思っていたのです。看板に描いてあるんだもの。ここが河童の住まいでないはずなかろう。

さて、この本の主人公ゲンタくんは、この「およぐな きけん」の立て看板のある川でナマズをとろうとして、河童に川にひきずりこまれれるのです。
このゲンタの目で見る一面の水(の模様)がなんだかリアル。本当に水にひっぱりこまれるようで、苦しいような、不安なような、でも、なんだか涼しくて気持ちがいいような・・・

この河童はどうやら最後の生き残り河童みたいだ。
ゲンタの前で繰り広げるひとり芝居がまるで落語みたいで、すごくおもしろい。
ゲンタに釣られそうになる「大王ナマズ」がふがいないから「ただのナマズにしてしまおう」「ゆるせん、ナマスにしてしまえい」には、くすくす笑ってしまった。
強がって恐がらせたりしてるけど実は寂しがり屋、ちょっと気が弱くてとても優しい河童は、妖怪のイメージからは遠くて、物語は、ユーモアがあって、少し物悲しい。

百年に一回脱皮する河童の抜け殻を着たゲンタは河童になって、河童といっしょに夏中、川で陽気に暮らす。ちょっと雰囲気がジュリエット・キープスの絵本「ゆかいなかえる」に似ている。こういう雰囲気大好きです。

  >月夜のばん、月は川のてんじょうの、そのまた上に、
   ゆらゆらとあかるくかがやきました。
   小魚のむれがとおるたびに、月のあかりが金の粉のようにこぼれます。
   そんな夜、水の底ではお月見です。
   ・・・

やがて、秋になり、人間の世界に戻りたいゲンタに、河童は、抜け殻をきちんと畳んで持たせてくれた。来年の夏にまた戻ってこられるようにと。

来年の夏、ゲンタは抜け殻を着ようとして、やぶってしまう。ゲンタは去年よりずっと大きくなっていたのだ。
敗れた抜け殻は、ゲンタの脱皮。つまり、成長するってこういうこと、と気負わずさらっと語ってくれる。冒険の果てに何かを掴む成長ではない成長ストーリーがここにはある。
大きくなるって、ほんのちょっと悲しいものかもしれない。
くすっと笑わせながら、同時にほろっとさせてくれる物語。夏休み最後の日に相応しい本でした。